寄生少女
三条友美
2013年3月14日 初版発行1
おおかみ書房
三条友美を知ったのは社会人になってからで、中野ブロードウェイでホラー漫画漁りをしていたときに偶然見つけたのである。「寄生少女」というショッキングなタイトルと、涎を垂らす女性のそばに不穏に寄り添うハエが描かれた表紙に惹かれ、少し値は張ったがすぐに購入して一気に読んだ。ホラーを求めていた僕であったがその内容は中々に精神を抉るようなものであった。「異形の怪異」「不幸な少女」グロテスクな物語の数々…。昆虫的な怪異が多めに散見されるが、どれも相当グロテスクである。我々脊椎動物である哺乳類からかなり遠いところにいて、r戦略がその遺伝子に叩きこまれている彼等昆虫をベースにした怪異は幽霊のそれとはまったく違った気持ち悪さを我々に提供してくれる。
本作品は全16作品のオムニバス形式ではあるが、描き下ろしの4作品を除いた12作品について書評を記述しようと思う。
書評
へび人形
いっしょにくる?
三条友美 [2013] 『寄生少女』 p.4
このままだとひとりぼっちで死んじゃうよ
カノンと恋人関係にある2裕太にひそかに恋心を抱いている美夕、というありふれた三画関係に発展したのち、裕太が死亡した。そこから歯車は狂いだし、裕太を思う気持ちが強すぎた美夕は「へび人形」という人形を作り、そこに裕太を降霊させる。その方法は不明であるが、そこには明らかに新しい怪異が宿っていた。彼は美夕に一時的に乗り移ることが可能で、結局はカノン、美夕ともに喰い殺した後、廃墟の主となる。なぜ「へび」人形なのだろうか。それは最後彼が廃墟で大きな口を開けて獲物を丸のみすることからそう名付けられたと考えられる。
片思いというのは、ここまで人を狂わすのであろうか。女子高生の片思いの気持ちを踏み躙るという点で後味の悪さを孕んだ作品となっている。
真夜中のイタズラ
エニスさまの一番になりたい
三条友美 [2013] 『寄生少女』 p.38
エニス様とは何なのだろうか。その登場の仕方を考えると人間ではないと思われるが、人間がお面をつけているような外見をしている。気色の悪い蜘蛛などの体液をターゲットに飲ませ、ターゲットが恍惚とすることから、何らかの幻覚を扱う怪異なのかもしれない。そのため、人間ではあるがターゲットの知覚が狂うために、唐突に登場したように描かれているのかもしれない「ENIS」というマークはおそらく「死ね」という言葉を示す文字遊びであると考えられるが、何とも悪趣味である。
友情怪談
大丈夫
三条友美 [2013] 『寄生少女』 p.47
生理食塩水ってすぐ吸収しちゃうんだよ
沙季の目的がいまいち不明であるが、いじめられっ子である美羽を醜くすることで、一生彼女を自分のそばから離れさせないようにしたかったのだろうか。もしくは、自分よりもかわいそうな人間を作り出しそばに置くことで優越感を味わいたかったのだろうか。生理食塩水を体内に注射するだけで十分気味が悪いというのに、それが農薬であるとは考えただけでも恐ろしい。沙季と美羽の入れ替わりのあとで、ブクブクに膨れ上がった自分の顔を見た美羽は何を思ったのだろうか。
マミーちゃん
きっとこの子
三条友美 [2013] 『寄生少女』 p.66
里美さんの体気に入ったんだ
好きな作品である。ジガバチを飼っていた海も結局は餌食になってしまう。慣れることはあっても懐くことはない昆虫の性が正確に描かれている。本来人間であった怪異に対して、人間の常識が通用しない場合が多いが、元々昆虫だったものが怪異(?)になったことでなおさらややこしい状況に仕上がっている。里美に植え付けられたジガバチの卵は彼女の胎内で成虫になり、宿主の身体だけでなく、飼い主であった海すらも食してしまうという恐ろしい話だ。
ちょうど部屋を飛んでいたノミバエを見て、僕が寝ているときなどに、鼻の奥などに卵を産み付けないか不安になった。
変身させて
そうだ
三条友美 [2013] 『寄生少女』 p.74
今ペガサスになってるよ
先生の元で犠牲になった女性たちに植え付けられた癌細胞が意思をもち、先生に復讐をするという話。「身体の細胞をすべて癌細胞にすれば助かる」というめちゃくちゃな論理を展開していた彼であったが、最後は意思をもった癌細胞に殺されてしまうという皮肉がこもった作品である。
しかしそのようなことよりも、実は作者はペガサスのくだりを描きたかっただけなのではないかと感じてしまう。
催眠あそび
活きのいいうちに食べて~
三条友美 [2013] 『寄生少女』 p.94
恋人の病を治すため悪魔と契約する女の子の話、と言えば聞こえはいいが、実際は悪魔という名のSMプレイを見にきた客の前で繰り広げられるSMの話で、それを強行するために、女王様が結衣に催眠をかける、というもの。最終的に身体を改造され悪魔のような容姿になってしまった結衣はめでたく恋人の病を治すことができるが、変に綺麗にまとめようとしているところも不快感があって非常に良い。
ゴキブリを食べさすSMプレイなんてあるのだろうか…考えただけでも恐ろしい….
蟲病院
君まで感染してしまう
三条友美 [2013] 『寄生少女』 p.116
所謂小さい世界のパンデミックホラーのような作品でテーマや構成も比較的わかりやすい。ほかの作品に比べ物語要素がしっかりしていて面白い。自らを犠牲にしてまでも恋人と生きる道を選んだものの最終的に幼馴染に彼氏共々殺されてしまう。その時に詩音が幼馴染に感謝の言葉を伝えたことをみるに、芋虫に変身してからの二人の地獄の様な生活が垣間見える。人は人でないと生きていけないということなのだろう。
デリバリー彼氏 90分の恋人
どうぞお好みの人形を選んでください
三条友美 [2013] 『寄生少女』 p.134
デリバリーするのは悍ましい人形ではあるが、その魔力にかかると客にはそれがイケメンに見えるらしい。
昨今レンタル彼女界隈はどうなのだろうか。僕は一回もそのサービスをつかったことがないからわからないが、実際こんな人形が出てきたら怖すぎである。
シャカシャカピエロ
ねえ…ピエロのお面とって
三条友美 [2013] 『寄生少女』 p.144
当初、ピエロは味方かと思われたが、結局は怪異であり舞子の命を奪った。怪異はどこまでいっても怪異であり、人間と相いまみえることはないのであろう。
ところで、ピエロが怖いのはなぜであろうか。おどけているのにどこか無機質と言うか、無表情な感じが、笑顔だけど目が笑ってない人に対して感じる怖さと類似する点があるのを否めない。学生の時の友達に聞いた話だが、その友達が小学生の頃、実家によくピエロが「出た」そうである。夜中、2階から階段の下をのぞくと、ピエロが立っていてじーっと友達を見ていたそうな…
彼氏はケダモノ
トクントクン
三条友美 [2013] 『寄生少女』 p.152
君にこうされると
ハルナの心も体も
トクントクン
タカシが放出する体液はタカシの「真実」であること、そしてその液体を飲むと、異常に空腹感に襲われることを鑑みるとタカシはさしずめ空腹をもたらす怪物といったところであろうか。その体液を口内より注入されるシーン、感極まったハルナがポエムを口ずさみ痙攣する様は明らかに異常である。ハルナは日常的にタカシを想起させる落書きをしており、タカシの出現が先か、落書きが先かは不明である。
怪物であるタカシに恋をした精神に異常をきたした女子高生という構図だけでもお腹いっぱいではあるが、この作品には一ノ瀬というイケメンが登場する。彼は怪物であるタカシを退治しようと繰り出し、ハルナといちゃつくタカシに発砲をする。しかし弾丸はタカシにまったく効かず、一ノ瀬は彼に食われてしまう。それがトリガーとなり、タカシの牙がハルナに向き物語はラストを迎える。
寄生少女
涼……おなかすいた
三条友美 [2013] 『寄生少女』 p.182
高校の時に目黒の寄生虫博物館にいったのがきっかけで、僕はお腹に回虫を住まわせ共生環境をつくることで、ダイエット効果を得られる、ということを知った。この作品を読んだときに冒頭でその件触れられていたので少し嬉しくなったが、本件の寄生虫は宿主と共生をするものではなく、宿主を支配する種のものであった。寄生虫を宿主から引きはがすと宿主が死んでしまうため、寄生虫に支配された雫と共生するために、自らも寄生虫をその体内に宿すことを決心して物語は終わっている。
この寄生虫は幼体であっても、体内に規制するとすぐに成体に育ち体内に産卵をすることで爆発的に増えることができる点も脅威といえる。表題作にして、気持ち悪さと、救いようのなさは天下一品である。
きりきり同盟
ようこそ
三条友美 [2013] 『寄生少女』 p.192
きりきり同盟に!
自傷行為の限界を見させられた気がする。僕には自傷癖がないので今いちピンとこないが、あゆみはその行為をすると罪悪感と共に生を実感するらしい。彼女の太ももに刻まれた「亀女」という文字がやけにさもしく、印象的であった。
それにしてもきりきり同盟管理人の「ともみんBモード」ってなんやねん。
まとめ
本作を読んだ後に知ったのだが、三条友美はもともとエロ劇画漫画を描いていたのだ。いずれそちらの方も機会があれば読んでみたいと思う(読んでも書評はこのブログにはあげないが…笑)。つくづく、ホラーとエロと言うのは決して相まみえない概念ではないと感じる。三条友美はホラーとエロ、二つの概念をグロテスクという要素で橋渡しするのが上手な漫画家である。そしてこの「グロテスク」という要素は中々厄介である。その度合いをホラー寄りにするのか、エロ寄りにするのかでスプラッター、リョナ、エログロナンセンスなどのジャンルへと転嫁してしまうからだ。それらは広義には「ホラー」に属するかもしれないが、今のご時世「ホラー」ではない何か有害なものという烙印を社会から押されてしまうこともあるだろう。
そんな限られた、ぎりぎりの空間の中で、三条友美は我々にホラーを提供してくれた。本作に収録されている作品は「友情」や「愛情」などの要素を極端に歪めて、目も当てられない異形のもの、救えない人間達、グロテスクな描写を生々しく描き、我々読者に揺さぶりをかけてくるものが多いと感じる。そして、作品の中で怪異や異形と接した人間は、必ず不幸になっていることから結局怪異はどこまで行っても怪異であり、人間と分かり合うことはできないことを示唆しているのである。そのあまりに残酷で救いのない話の数々に目を覆いたくなる。それにもかかわらず、不思議と三条友美作品にはまた読みたくなる魔力が溢れているのだ。
- 各作品の初出を下記に記述する。
「へび人形」 ぶんか社「ホラーM」2005年10月号
「真夜中のイタズラ」 ぶんか社「ホラーM」2009年8月号
「友情怪談」 ぶんか社「ホラーM」2006年10月号
「マミーちゃん」 ぶんか社「ホラーM」2007年12月号
「変身させて」 ぶんか社「ホラーM」2008年2月号
「催眠あそび」 ぶんか社「ホラーM」2005年7月号
「蟲病院」 ぶんか社「ホラーM」2006年1月号
「デリバリー彼氏 90分の恋人」 ぶんか社「ホラーM」2008年4月号
「シャカシャカピエロ」 ぶんか社「ホラーM」2006年10月号
「彼氏はケダモノ」 ぶんか社「ホラーM」2009年6月号
「寄生少女」 ぶんか社「ホラーM」2007年3月号
「きりきり同盟」 ぶんか社「ホラーM」2010年6月号
「友美と劇画狼のさくひんかいせつ」 書き下ろし
「真夜中のイタズラ エピソード0」 描き下ろし
「エクトプラズムちゃん」 描き下ろし
「わたしは寄生少女」 描き下ろし ↩︎ - 二人が恋人関係にあったとは明示はされていない。 ↩︎


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