【書評】金しばりレストラン

怪談レストラン⑥ 金しばりレストラン
怪談レストラン編集委員会・責任編集 松谷みよ子
絵 たかいよしかず
1997年6月20日 第1刷発行
株式会社童心社

怪談レストランシリーズ全50巻あるうちの第6巻目、金しばりレストラン。
表紙には仰向けに寝ている男の子の腹の上にちょこんと座ったおばあさんが描かれている。おばあさんは顔面真っ青で薄ら笑いを浮かべている。周りには人魂が飛び、男の子は煩悶している。おばあさんはこの世のものではないのであろう。そして今まさに「金縛りなう」なのである。
彼女の名は金しばりばばあ。
金縛りになると身体が動かせないことから転じてこのような怪異が生まれたのであろう。ほかにも、キツネや蛇などの動物が腹にのっていた話などがある(金縛りではないかもしれないが)。
金縛りレストランの外観はなにやらジャガイモに芽がはえたような形をしていて、「金縛り」との関連性は見つけられなかったが、これはもしかして、防空壕をイメージしたのではなかろうか。またこのレストランで働くウエイトレスは元口裂け女という異色の経歴をもっている。なぜ口裂け女なのか不明ではあるがちょっと面白い。「妖怪レストラン」での選考に落ちてしまったのだろうか。

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目次

あらすじ

ようこそ 金しばりレストランへ

怪談レストラン編集委員会 [1997] 『金しばりレストラン(怪談レストラン)』 p.2

ある男が幼少期に経験した金縛りの思い出。彼はその際自らの腹の上に兵隊さんがのっているのを目撃する。戦争で命を賭した彼らのような亡霊の為に、彼は「金しばりレストラン」をつくる。
読者はゲストとなり、当レストランでお料理(お話)をいただくのである。
作品は全12話のオムニバス形式で描かれ、内2話は金しばりレストランに関する話、内10話は広義のホラーに関する話で構成されている。「金縛り」に関する話が多めの印象ではあるが転じて「夢」に関するものとなっている。表紙の金しばりばばあの話も収録されている。p4-5 レストランのメニューを模した目次が非常に面白い。

メニュー

最初のおはなし 金しばりレストランがいまここにあるわけ (松谷みよ子)

ひろくん、ありがとうよ、こんなたいせつなこと、ひろくんにおそわるなんて、おばあちゃん、はずかしいよ

怪談レストラン編集委員会 [1997] 『金しばりレストラン(怪談レストラン)』 p.12

金縛りの要因である戦死者の亡霊がお腹いっぱい食べられるようにと願いを込めて「金しばりレストラン」はオープンした。小人のような兵隊が引き起こす金縛りになぞらえたレストランのネーミングは非常に良い。

電話のおはなし あの世への電話 (松谷みよ子)

おれを殺したのは、おまえだろ

怪談レストラン編集委員会 [1997] 『金しばりレストラン(怪談レストラン)』 p.23

あの世へ繋がる電話があったら、僕は電話をするだろうか。恐山にはイタコがいて口寄せができるのとなんか似ている。死んでしまった人間とコミュニケーションをとるのは我々人間の長年の夢ともいえる。しかし当然そんなことはできない。こんなブログを書いているにもかかわらず、意外にも人間は死んだらおしまいだと考えている僕にとってはこの電話で誰と何を話すか考えることは机上の空論でしかないのだ。

ねこ夢 (水谷章三)

ところが、あるときほんとに、しっぽをちょんぎってしまいました。

怪談レストラン編集委員会 [1997] 『金しばりレストラン(怪談レストラン)』 p.28

単純に夫が鬼畜だと思った。猫好きな僕にとって、そのしっぽをちょん切るなど言語道断である。猫の味方であったおばさんにも一発仕返しをしちゃうところが猫っぽくて好きだ。

通夜の客 (小沢清子)

そう、あれは夢じゃなかったのよ。おなじ日に亡くなった三人は、いっしょに、あの世へいくわけでしょ。

怪談レストラン編集委員会 [1997] 『金しばりレストラン(怪談レストラン)』 p.47

同じ日に死んだ三人がしめしを合わせて一緒にあの世へ旅立つ話。どこかほっこりする話である。人が死んで、三途の川を渡ると、四十九日間の裁判が待ち受けているそうだ。そんな苦難を乗り越えるために彼らは徒党を組んだに違いない。

空をとんだ話 (望月新三郎)

が、からだがうごかない!

怪談レストラン編集委員会 [1997] 『金しばりレストラン(怪談レストラン)』 p.52

飛ぶ夢と言うのを、僕もたまに見る。しかし、その夢のオチはほとんどの場合「落下」に帰着する。落下しているときのあのリアルな重力は脳が見せているものではあるが、毎回びびって目が覚めるのである。

もえる指 (岩倉千春)

栄光の手よ、栄光の手よ、ねむったものはねむったままに、おきてるものはおきてるままに

怪談レストラン編集委員会 [1997] 『金しばりレストラン(怪談レストラン)』 p.65

ある泥棒が手でできた魔法のランタンを使う話。それがまじないじみてて、雰囲気が良い。指につけられた炎が、水では消えなかったにもかかわらず牛乳をかけたら消えたことから、牛乳がまじないを消すための魔除けの効力があるものとして描かれている。

ホタルになった宝 (剣持弘子)

おれをだしぬいたつもりだったのだろうが、そんなに世の中あまくないぜ。

怪談レストラン編集委員会 [1997] 『金しばりレストラン(怪談レストラン)』 p.82

一生遊んで暮らせる金と引き換えに魂を要求する悪魔であるが、それは無茶であろう。金を手に入れたら即時殺されるとあってはそのような契約をする者などいない。
ここでいうホタルは金貨の「金」を構成する精霊の化身のようなものだったのだろうか。そのホタルが飛んで行ったあとで、木炭がのこっているなんてすこしファンシーで情景がおしゃれな話だ。

清めの塩をわすれたら… (高津美保子)

このばばあ、おまえはこの世のものじゃないんだ。さっさとかえれ!

怪談レストラン編集委員会 [1997] 『金しばりレストラン(怪談レストラン)』 p.87

表紙の「金しばりばばあ」が出演している珍しい話。彼女を追っ払うときのセリフはストレートすぎて笑ってしまった。必要なときにはこのように強気にでるのも大事である。それは相手が幽霊でも人間でも対して変わらない。それにしても、下手に出てるうちはにまぁっとへらへらしているにもかかわらず強めに言われると不本意そうな顔で飛んでいく金しばりばばあは愛嬌があって僕は好きだ笑

夢の中のおとずれ (吉沢和夫)

おまえには、三度も、この家の門のまえであったな。

怪談レストラン編集委員会 [1997] 『金しばりレストラン(怪談レストラン)』 p.97

なぜA君は家に入れなかったのだろうか。三度目の邂逅のあとに扉をすり抜ける彼を見るに、家に入りたくても入れなかったのだろう。それは、彼の妻や母が住んでいたからか。いやいや、彼女らがいるからこそ、家に入ってあげなさい。彼女らを守ってあげなさい。と思うのは僕だけだろうか。彼はみんな死んで誰もいなくなった家に、今でもすんでいるのだろう。

夢でみた場所 (望月正子)

おそかったっ!

怪談レストラン編集委員会 [1997] 『金しばりレストラン(怪談レストラン)』 p.106

人間が立ったまま氷漬けになっているシーンは当時衝撃的だったのを覚えている。彼が加藤の夢に出てきたときにはもうすで彼は死んでいたのだろうか。このように夢で出てきたことが現実とリンクすることがたまにあるが、偶然とはわかっていても、不思議である。

デザート 夢とちがじゃないか (常光徹)

ふーっ。夢だったのか

怪談レストラン編集委員会 [1997] 『金しばりレストラン(怪談レストラン)』 p.115

有名な話。オチがしっかりあって面白い。この手の話を聞くと、「ドラえもんのび太と夢幻三剣士」に登場するトリホーを思い出す。彼らは夢見の国と現実を自由に行き来することができるのであろう。トリホーがのび太を利用し妖霊大帝オドローム夢見の国の王にしようとしたように、サングラスをかけた男の真の目的はなんだったのだろうか。まさか由美子という子供を殺すことだけが目的だったわけではあるまい。

最後のおはなし 声だけの友だち (岡野久美子)

そうさ、ぼくはムーマ。人間の夢の中にすんでいるんだよ。

怪談レストラン編集委員会 [1997] 『金しばりレストラン(怪談レストラン)』 p.124

人間の一番大切なものを奪うという、悪魔が一人前の悪魔になる試験合格のために、ムーマが女の子をたぶらかすという話。舞の機転で試験に不合格となったムーマだが、あてつけに舞の命を奪わなかったことから、彼はしばらく一人前の悪魔にはなれそうにない。

まとめ

僕がちょうど小学5年生くらいのころ、親戚のみんなで箱根に旅行にでかけた。宿泊した旅館は古く、その日の客は我々しかいなかった。客室から温泉までは長い木の廊下が続きその間にトイレや卓球場があったと記憶している。そこの共同トイレは、確か男女共用で、曇りガラスの埋め込まれた木製の引き戸を開けて入ると真ん中に手洗い場があり、その周りを囲むようにして立ち便器、個室便器があった。旅行の一日目は早めに旅館に到着し、温泉に入ったり、卓球をしたりして遊んだ。夜ごはんを食べて再度温泉、卓球を楽しんだあと、部屋で寝たわけだが、そこで僕は人生で初めて「金縛り」にあった。だんだんと記憶が曖昧になっていくのでここで記述しておこうと思う。夜中、ふと目が覚めるが体が動かない。不思議なのは視界に映る景色が、客室の布団で寝ながら見ている景色と、共同トイレの、ちょうど真ん中の手洗い場から引き戸の方向を見ている景色が混線し、ぱっぱと入れ替わったりしているような感じであった。その間、ずっと体を動かすことはできない。おそらく夢を見ていたのだろう。しばしの混線のあと、視界はトイレに固定された。そして目前の引き戸がすーっと開いて、なんとそこから透明のシーツのような、うすいものがふわーっとこっちに漂ってきて、僕に覆いかぶさったのだ。視界が真っ白になり、そこで目が覚めた。汗をどっさりかいていて、異様に疲れていたような気がする。その日以降、今に至るまで僕が金縛りにあうことはなかった。どちらかと言うと僕の眠りはマリアナ海溝のように深く、一度寝たら絶対に朝まで起きることはなかった。子供の頃にした数少ない不思議な体験の一つである。

ついでにもう一つ、僕の叔母が体験した金縛りの体験談を記述しておこうと思う。叔母が10代後半くらいの時、家の布団で寝ていると、金縛りにあった。目は開いており、デジタル式の置時計が目に入っている。そのデジタル時計の表示がめちゃくちゃになっていたそうだ。液晶には不規則に並んだ数字、数字とも言えない奇妙な表示がパラパラと絶え間なく姿を変えている。怖くなった叔母は早く終われ早く終われと思っていたが、やがて耳元にざっざっという音が聞こえるようになる。その音はたくさんの人が砂利のような道で行進をしているかのような足音であったらしい。デジタル時計のめちゃくちゃな表示、足音は絶え間なく叔母の感覚を襲った。叔母は早く終われと願い続けた。しばらくするといきなりすっと金縛りが解け、楽になったという。あの足音はもしかしたら戦争の時の兵隊さんのそれだったのでは、と言う叔母に、本作「金縛りレストランがいまここにあるわけ」を思い出した。以上が叔母に聞いた話である。

それにしても最近は朝まで眠るということはほとんどなくなった。年のせいだろうか。5時くらいにトイレに起きてしまう。Apple Watchでここ半年、眠りの測定とやらを行っているが、所謂深い眠りゾーンは寝付いてから2時間程度しかなかった。なのでメラトニンの生成に役立つという噂のバナナを毎日朝ごはんとしてむさぼるようにしている。
バナナの神様どうか僕に爆睡を与えたもれ。


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