【書評】魔女のレストラン

怪談レストラン⑦ 魔女レストラン
怪談レストラン編集委員会・責任編集 松谷みよ子
絵 かとうくみこ
1997年6月20日 第1刷発行
株式会社童心社

怪談レストランシリーズ全50巻あるうちの第7巻目、魔女のレストラン。
表紙には魔女が描かれている。それは、きっと皆が心の中に画像として保存しているであろう典型的な魔女だ。黒いとんがり帽に黒いローブ、髪の毛はラーメンのスープとよく絡みそうな縮れ麺のようなソバージュ、手には頭蓋骨を持っている。彼女がかける円卓には「魔女料理」が並んでいる。蛙、毒々しいきのこ、蜘蛛の料理の数々…。
彼女の名は魔女。ってそのままかーいってツッコミをいれたくなる。
ディズニー作品等を見ていると魔女というのは大抵「良い」魔女と「悪い」魔女に分かれる。その判断基準は魔力を「良い」ことに使うのか「悪い」ことに使うのか、という点であろう。しかしそれを判断するのは基本的に人間であるため判断基準は曖昧である。そしてその判断の結果どちらの場合でも彼女らが強力な魔力を有していることに変わりはないため、「良い」「悪い」で判断するのは大変危険である。魔女のレストランに登場する魔女は、果たしてどちらの魔女だろうか、それは読者の皆様がじっくりと判断をしていただけたらと思う。

目次

あらすじ

ようこそ 魔女のレストランへ

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.3

今までの怪談レストランの中で一番レストランっぽい見た目をしている。屋根には鬼瓦ならぬ髑髏瓦が客人を見下ろし、入口のドアノブは骨でできている。そのほかにもリアルな手の形をしたドアノッカーや意味深な表情でたたずむ黒猫など、胡乱なところは多々あるが、花を飾ったり、メニューを掲示したりしていて、非常にお洒落なレストランっぽい。
読者はゲストとなり、当レストランでお料理(お話)をいただくのである。
作品は全13話のオムニバス形式で描かれ、内3話は魔女のレストランに関する話、内10話は広義のホラーに関する話で構成されている。「魔女」「老婆」に関する話が多めの印象。p4-5 レストランのメニューを模した目次が非常に面白い。

メニュー

最初のおはなし <魔女のレストラン>にご用心 (松谷みよ子)

かべはビスケットかもよ
ドアは板チョコかもよ

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.7

怪談レストランの冒頭のお話で「ご用心」という言葉が使われたのは魔女のレストランが初めてだ。猫たちが魔女の人形が作ったパンを食べて人間になるのを二人の女性がが目撃したのだ。そしてこのレストランは神出鬼没、信州の深い山中にあったと思ったら急に消えて、今度は大都市東京にその姿を現す。
魔女のレストランのスタッフは皆猫なのだろうか、とすると、結構可愛いものである。いずれにしても猫や人形といったものをオーナーである「魔女」が魔法で動かし、このレストランは運用されているのであろう

石うすのおはなし かざられた石うす (松谷みよ子)

わたし、ねこになっても、うさぎになってもいいわ。どうしても魔女のレストランのお料理たべることにする。

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.22

好奇心と言うものは罪なもので、このおばちゃんはどうなってもいいから魔女のレストランの料理が食べたいらしい。それほどまでにグルメなのだろう。僕は意外に食べ物にそこまで興味がないというか、執着がないというか、ご飯をたくさん食べるのは好きではあるが、極端な話白ご飯に醤油をかけて食べるだけでもかなり満たされる安い男である。なのでこのおばちゃんの気持ちは分からない。

空をとぶ魔女 (杉本栄子)

今夜ヴァルプルギスの夜、魔女たちのお祭りです。

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.25

魔女に関するオーソドックスな話。ヴァルプルギスの夜に、魔女たちはサバトへと向かう。悪魔が演説する中魔女達はおどろおどろしい料理を囲み、踊る。この話は男がサバトのことを打ち明けた相手が「ストーブ」だったため魔女との契約違反にならないという頓智話のような側面をもっている。魔女だった隣のおばさんがご丁寧にその解釈を男に説明してしまったがために、自ら火あぶりとなってしまう。なんとも哀しい最期であろうか。

せんたくものにひそむ魔女 (剣持弘子)

およし!だれも手をだすんじゃないよ。死にぎわの魔女に手をにぎられたものは、魔女になるっていうからね。

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.43

日が落ちてから洗濯物を干すなと祖母によく言われたものだ。やれ縁起が悪いとか、良くないモノを引き寄せるとか、赤ん坊が泣くとか言われた。うちには赤ん坊いないよと思いつつその言い付けを守ってはいた。本作はイタリアの話だが、イタリアでは洗濯物を夜干すと魔女が憑りつくらしい。国は変わってタイでは洗濯物を夜干して、それが汚れていたら、それはピー・ガスというお化けの仕業であるという迷信がある。世界には似ている迷信があるのだと驚いた。まあよく考えてみると、夜洗濯物を干すと下着泥棒の被害にあったり、虫がたかったり、なかなか乾かず菌が繁殖したりしそうなので、迷信も頭ごなしに馬鹿にできないものである。

井戸の底のばあさま (吉沢和夫)

おまえはいい子じゃ。こっちへはいって、わしの頭のシラミをとっておくれ

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.48

典型的な心の清い者が得をして、心の汚いものが痛い目をみる話だ。それにしても竹子の母親のヒステリックたるや、恐ろしい。おばあさんは井戸に住み着いた日本版魔女といったところか。

こんな顔? (岩崎京子)

ほうか、ほうか。そいつはこんな顔じゃなかったかね

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.60

怪談の王道である「再度の怪」の話。しかしのっぺらぼうではなく、まさかの天狗である。天狗というのはもっと山の深いところにいて、なかなか人前に姿を現さないイメージがあったので、少しギャップがあって面白かった。

わたしたちの車は、時速100キロで走ってたから、あのときのおばあちゃんは、たぶん150キロ以上はでてたわね

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.73

走るおばあちゃん (常光徹)

びっくりおばあちゃんが登場する。ギャグ回ではあるが「五センチがくれの術」を発動しているおばあちゃんの挿絵に子供の頃の僕はめちゃくちゃビビっていて、部屋の家具の間に隙間があるとソワソワしていた。
隙間ババアとターボババアの能力をもったおばあちゃんとは最強である。こんなおばあちゃんが家にいたら毎日楽しそうだ。

ふしぎなばば (桜井信夫)

川戸のばばの話をききましてなあ

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.81

少女が神隠しにあう話。山のモノが嫁にした人間のわきの下から血を吸うという隠れおぞましい話。血を吸われた人間はみるみる老いてしまうことから山のモノは人間の寿命や精力を奪うのだろう。「ふうじこめ」の呪文でばばが出てこれなくなったことを鑑みると、彼女はすでに半分怪異なのであろう。今頃はもうすべて吸い尽くされてしまったに違いない。

ルサールカ (斎藤君子)

ロシアではこんなことはよくあることさ。だから、月夜の晩は明るいからって、おそくまで外であそんでいてはいけないんだ。

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.93

哀しい過去をもつ妖怪ルサールカ。月の美しい夜に現れるルサールカの催眠を脱するために星の水を処方するのはどこか儀式的でお洒落である。

さとりのおばあさん (望月新三郎)

あれは、山にすんでる、さとりの化けものよ

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.107

鳥山石燕画「今昔画図続百鬼」にも登場する覚。さとりが登場する話は、木こりの小屋にさとりがやってくるものが有名ではあるが、本作は現代風にオマージュされている。面白いのはさとりの能力は未来予知ではなく、人間の考えていることを読み取るものである点だ。また、当然人間の行為であっても意識に現れていないことは読み取ることはできない。

鬼ばばのへそそば (水谷章三)

“鬼ばばのへそそば”は、そばずきな人なら、しらない人はいない、というくらいの名物そばだ。

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.108

なんともほっこりする話である。鬼がへそからそばを出すシーンはなんともむずむずとする。それはへそゴマ掃除をすると、お腹が気持ち悪くなるあの現象に似ている。
当時本当にこういう商品があるのかと思い、スーパーに行くたびに探してしまった。見つかることはなかったが…

デザート 十二人の魔女 (岩倉千春)

スリブナモン山が火事だ!
スリブナモン山が火事だ!
スリブナモン山が火事だ!

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.127

スリブナモン山とはいったいどこにある山なのか、調べてもいっこうにわからない。血のパンケーキの材料にされた人間が死に至るというのは非常に怖い。取り出された血液に魂が凝縮しているのだろうか。この話は、夜遅くまで家で仕事をしているということが、十二人の魔女が現れる条件として明示されているが、それは現代においても早く仕事が始まり、早く仕事終わるイギリスを象徴しているといえる。

魔女のブティック(松谷みよ子)

あらあら、あんなところにブティック

怪談レストラン編集委員会 [1997]『魔女のレストラン(怪談レストラン)』p.135

最後の最後で不穏な話である。魔女のブティックの試着室に入ったおばさんはどうなったのだろうか。「魔女」が彼女を猫や兔にしなかったのは、彼女を油断させてブティックに寄らせるためだったのではなかろうか。

まとめ

以前僕が大阪にいたときの話だ。
東大阪市に「魔女」というレストランがあった。メイン料理はカレーライスだ。言葉にするのが難しい、とても複雑な味がした。そしてそこには「魔女」にそっくりなオーナーがいて、お話ができる。店ではたまに常連さんを呼んでパーティが開催されるらしい。さながら「サバト」だ。気になる方は訪れてみてほしい。不思議な雰囲気の素敵なお店だ。1

「魔女」と聞くと恐ろしいイメージよりも、魔女狩りの哀しい側面のほうが先行して脳裏をよぎる。本作における「せんたくものにひそむ魔女」にも記述されているが、魔女という烙印を押されるとすぐに火あぶりにされてしまうのはシンプルに不憫だ。その罪悪感を薄め、狩りを正当化するために「魔女」という概念に数々の怖い特徴があとから肉付けされたのかと思うと少し複雑な気持ちになる。火あぶりの際、魔女には群衆が悪魔に見えていたに違いない。


  1. 魔女 HP
    https://ejl3.kyarame.com/curry/ ↩︎
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