【書評】お化け屋敷になぜ人は並ぶのか – 「恐怖」で集客するビジネスの企画発想

お化け屋敷になぜ人は並ぶのか – 「恐怖」で集客するビジネスの企画発想
五味弘文
2012年6月10日 初版発行
角川oneテーマ21

僕が一番最初に訪れたお化け屋敷は、たぶんとしまえんのミステリーゾーンである。もはや当時の僕は小さすぎてその内容をよく覚えていないが、ライド形式のお化け屋敷であったと思う。そして、ミステリーゾーンよりもアフリカ館の壮大な滝だか湖だかのほうが怖かったのをはっきり覚えている。真っ暗な中、たしか橋のようなものを渡るとき、橋の下に広がる水がただ怖かったのだ。この手のアトラクションでもう一つ強烈に印象に残っているのは、ユネスコ村というかつて埼玉県にあった恐竜をテーマにした遊園地のライドである。ゲストは少し大きめのボートのようなものに乗り、恐竜が生きていた世界を様々なシーン別にめぐるのだ。そのシーンの一つに、夜の海というものがあった。真っ暗で広大な水面をゲストを乗せたボートがいくと、首長竜やワニのような恐竜が姿を現すのである。きっとたくさんの子供たちが海洋恐怖症を発症したに違いない。今考えても、とても迫力があって楽しい施設であったと記憶に残っている。
本作はお化け屋敷プロデューサーとして名高い五味弘文氏による新書である。このブログで新書の書評を書くのはこれが初めてだ。なぜ記念すべき新書一発目を本作にしたかと言うと、本作は僕の就活時代に読んだ思い出の一冊だからである。当時大学生で就活中だった僕は「お化け」や「怖いもの」を職業にできないかと漠然と考えていた。そんなときこの本と出会い、お化け屋敷プロデューサーという職があることを知り、さっそく五味弘文氏が代表取締役を務める株式会社オフィスバーンへエントリーをしようと考えた。知り合いが就職サポートを提供するサービスで起業していたということもあって、僕はそこのサービスを使いながら就活をしていたので、エージェントを通じてオフィスバーンへエントリーをしたのだ。結果は今は新卒採用はしていないということでエントリーすらできずに終わってしまったのだが、そんなこんなでこの本の存在はなんとなくずっと僕の頭に残っていたのだ。

目次

書評

私は、お化け屋敷プロデューサーという肩書きを名乗っている。

五味弘文 [2012] 『お化け屋敷になぜ人は並ぶのか – 「恐怖」で集客するビジネスの企画発想』 p.10

この本はまず現代のお化け屋敷事情を述べた後で、恐怖を演出するメカニズムは笑いのメカニズムである「緊張」と「緩和」に近しいものがあるという事に触れ、「恐怖」の深堀り、お化け屋敷プロデューサーとしてのノウハウと言った流れで話が進んでいく。お化け屋敷を手掛けた者にしかわからないリアルな情報がたくさん記述されていて、非常に面白い。

恐怖と笑いの構造が似ているという点には驚かされた。ゲストの「予想」を裏切ること、ゲストを「納得」させること、ゲストの「予想」通りになること、ゲストの「予想外」のことを、桂枝雀の「緊張の緩和」理論における「オチ(サゲ)」の分類ではそれぞれ「どんでん」「謎解き」「合わせ」「変」と定義されている。これはお化け屋敷の演出、だけではなくホラーに関する作品全般に言えるのではなかろうか。無論、それは映像を見たり、本を読んだりするのとは違い、劇場型の特徴をもつ「お化け屋敷」だからこそ、ゲストが享受できる「恐怖」はこれまた一入である。あとはその4パターンを踏まえて飛び出してくる要素が「怖い」か「面白いか」で結果が「恐怖」か「笑い」に転じていくのだ。そしてこれは「恐怖」と「笑い」が表裏一体であることを示しているともいえる。ホラー映画を鑑賞している際、その特殊メイクのチープさや、演技の下手さに笑ってしまったことはないだろうか。あれは「緊張の緩和」理論の針が笑いにふれてしまったからである。逆もしかりであろう。ごっつええ感じでやっていた松本人志の一人コントに怖かったものがあったのを覚えている。松本人志が子供に見立てたマネキンを使って一人コントをするのだが、あれは非常に怖い。気になる方はぜひ調べてみてほしい。それは、諧謔性がホラー味を強くすることに似ている。

また、お化け屋敷は「面白いか面白くないか」で評価されるお笑いと一緒で、「怖いか怖くないか」という観点でのみ評価を受けるとの記述も興味深い。それはゲストがお化け屋敷に実際に足を踏み入れることで得られる一次情報的視点と、読書、映画鑑賞において鑑賞者が得られる二次情報的視点からくる情報の密度の違いを遠因としているからで、前者の方がよりその目的が明白である為、評価基準としてその目的を果たせたか否かに関してどうしても重きが置かれてしまうからであると考える。ただ、お化け屋敷にも「ストーリー性」を帯びることによって、「怖いか怖くないか」という評価基準以外にも、雰囲気は良かったとか、怖くはなかったけど面白かった等の別の評価基準がもうすでに出てきているのではなかろうか。このお化け屋敷にストーリー性をもたせるという試みは、我が国の江戸時代より綿々と続くお化け屋敷文化の形態を「展示型」から「劇場型」へと変えたのだ。その主導者である五味弘文は、紛れもなくお化け屋敷の革命家であると言える。

恥ずかしいことを一点言うなれば、僕はオフィスバーンの企画したお化け屋敷に行ったことがない。機会があればぜひ行ってみたいと今でも思う。

まとめ

僕の中学の美術の先生が、肖像画を描く授業でよく言っていた言葉がある。
「人間の、泣いている顔と笑っている顔はとてもよく似ているんだよ」


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