混成種 -HYBRID-
カシュウ・タツミ
1994年4月25日 初版発行
株式会社角川書店
「郵便屋」に始まり、日本ホラー小説大賞に関連する作品をピックアップしようとの試みから、本稿では「混成種 -HYBRID-」を紹介する。この本も僕が角川ホラー文庫を買い集めていた時に出会った作品の一冊である。十年以上ぶりに再読したが、前半と後半で物語の見方が180度変わる作品だと感じた。前半では金属植物の仕組みなど理論的要素にかなり重きを置いているが、後半に差し掛かると、黒田(及び人間たち)対金属植物という一種のバトル漫画にも似たような雰囲気を醸し出している。
第1回日本ホラー小説大賞佳作作品。
あらすじ
こいつが種子チップさ
カシュウ・タツミ [1994] 『混成種 -HYBRID-』 p.37
「金属の植物」、周囲の金属イオンを「種子チップ」なる集積回路に集め、そこからスチール繊維の茎が伸びる。葉は太陽電池の特徴を有しており、葉の形成が完了すればそれは動力を追加しなくとも、どんどん成長をすることができる。そんな世紀の大発見をした黒田博士は、その植物を改良し、半身不随などで遮断された人間の神経を「金属の植物」が形成する繊維で代用するべく、それを人間に移植する実験を行う。動物実験を経た後で、不慮の事故で下半身が動かなくなってしまった黒田博士は、人体実験の第一号として「金属の植物」を自らの身体に移植する。手術は成功したと思われた矢先、彼の身体に奇妙な副作用が次々と発生する。
書評
言葉を。言葉を持つことが出来たからこそ、奴は思考を構築し、知能を持つことが出来たんです。面白いことに、言葉を持たないねずみに移植した時には、チップは暴走しませんでしたからね
カシュウ・タツミ [1994] 『混成種 -HYBRID-』 p.291
この作品が面白いのは、人体に金属植物を移植することで、完全なるもう一つの人格を形成する点にある。そしてその本体である集積回路に植物としての本能がプログラミングされていたことと、宿主が言葉を扱うという点が適合し予想外の「混成種」が生まれたのである。金属植物は宿主の感覚、過去、知識などすべての要素をデータとして吸収することができるが、以降お互いに考えていることを読み合うことはできないらしい。そして痛覚などの感覚の共有も行われない。これは、金属植物の人格が誕生してから、彼らの記憶域、感覚が二つに分断されたことを示唆しているのだろう。それほど脳には余力があるということなのだろう。作中の「人間の脳の約七割が使われていない」と言うセリフという伏線を回収している。つまりこの物語は人工知能の話ではなく、人工人格の話なのだ。そしてその人工人格は、誕生と共に宿主を特異体質に変えてしまう。体内から金属の繊維を自在に出し入れすることができ、おまけにエスパーとしての能力も開花させることもできるのだ。
物語の最後に林が金属植物が寄生した那由多の胎児をメタメタにするシーンが、エピローグの静寂を壊していて、妙な後味の悪さを残している。
まとめ
植物に中には、種を自分で飛ばしたり、動物にくっつけて運んでもらったり、風で飛ばしたりするものがいるそうだ。僕も小さいころ、外で遊んで家に帰ると母親に、背中にバカがたくさんついてるよ、と言われたものだ。バカとはセンダングサの種子で誰もが一度は見たことがある&くっつけたことがあるであろう、あのチクチクしたやつである。バカとはひどい言われようだが、彼らはそうやって人間や動物にくっついて、その生息範囲を広げているのである。根付いたところか動くことができない植物が考えた精一杯の方法なのだろう。
我々人間は植物と違って動くことができる。だから休みの日も家に閉じこもっていないで、たまには外で駆けまわり、動ける幸せを嚙みしめよう!と頭だけで考え、今日もこたつに根付いているのが僕である。


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