【書評】入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください

入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください
寝舟はやせ
2024年10月7日 初版発行
株式会社KADOKAWA

以前、「深淵のテレパス」と一緒に購入した作品である。その不可思議なそのタイトルと不穏なマンションの挿絵が気になって手に取った。
読んでみると僕の想像とは全然違って、中身は隣室に住む怪異と、自殺願望をもつ青年のある種の日常を描くものとなっていた。この作品において「怖い」の中に「ほのぼの」が見え隠れするのは、この主人公のもつ「自殺願望」と言う要素がキーとなって、それは平和な日常が怪異の侵食により非日常と化す側面でなく、「死」と隣り合わせの非日常が怪異の侵食により日常と化す側面を強調しているからである。そのため、日常の風景に怪異を取り込めなかった先住民はそそくさとこのマンションをあとにするのだ。
今回は、そんな一風変わった本作の書評を書きたいと思う。ちなみにこの作品はカクヨムから単行本化されたものだ。カクヨム、今度読んでみようかな。

目次

あらすじ

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寝舟はやせ [2024] 『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』 p.19

人生に嫌気がさし、どこで死のうかとふらふらしていた青年タカヒロは住み込みのマンション管理人の怪しい求人を見つける。
入居条件は「隣に住んでる友人と必ず仲良くすること」

書評

これは友達から聞いた話なんだけどね

寝舟はやせ [2024] 『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』 p.7

隣に住んでる「友人」と言う表現は、当初多少の違和感があった。それは例えばタカヒロとその実の友人である「ハヤト」が隣部屋にて入居し、以後喧嘩しないでね、というのであればわかる。だが、タカヒロの隣室にいたのはエイリアンのような怪異であり、タカヒロがそれを認識する前に入居条件に「友人」という単語がでている事が、不自然に思われた。そもそも人間が定義する「仲良く」と、怪異が定義するそれは全然違うであろう。その差異は本作の「怖さ」の根幹であるタカヒロと周囲の怪異との間に香り立つ悄然とした事象の遠因となっている。また、神藤たちの思惑として、隣人である怪異と「仲良く」することはとどのつまり別の意味を指すと考えられるが、その意味は人間一般が定義する「仲良く」に限りなく似ているということが分かる。いずれにしてもこの「入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください」というタイトルは作中にて展開される日常ホラーを芳烈とさせるためのスパイスとして優れていると言えるだろう。

結局なぜ隣人と仲良くしなければならないかについての言及は本作ではされない。その謎を解くためには701号室の彼が、何者であるかを考察する必要がある。彼はエイリアンのような姿をしていて、グミと怪談が好きな怪異である。なぜかタカヒロの母の名前を知っている。ホンワカするシーンとは裏腹に、話が進むにつれて、彼には「手作りの食べ物を渡してはならない」とか「誕生日を知られてはならない」などといった不穏な制約が出てきたり、わざと以前した話と同じ話をしてタカヒロがそれを指摘するか、つまり怪異の話をタカヒロがきちんと聞いているか怪異自身が試すシーンがあったり、怪異と人間のやりとりはどこかぎこちない。そして、ある日霊感商法に引っかかり呪詛をかけられた社長を救うために彼を連れて、伊乃平が701号室を訪れるシーンにて、社長の呪いを怪異に移すわけだが、これは怪異が「呪いの依代」であることを示唆している。いずれにしても701号室の怪異の正体は判然としない。

他に指摘箇所と言えば、隣人が話してくれる怪談が聞いたことのないような新しいものばかりでとても楽しめた。「最後の配信」のマネキンと配信者のくだりは新鮮でとても怖かった。本作では様々な伏線を残して終幕となったが、続編が出版されたそうで、読むのが楽しみである。

まとめ

かつてマンションのベランダ越しに、怪異である隣人に怪談を聞く物語があっただろうか。

以前大阪に住んでいた時、僕の家はマンションの角部屋であった。ベランダに出ると、かなりの高確率で隣人がベランダに出て煙草を吸っていた。風にのって煙が漂ってくるのだ。僕がそのマンションに住んでいる間、3回くらい隣人が変わった。家の出入りの際、引っ越し業者が荷物を運び出しているのを目撃したのだ。僕の隣に越してきた隣人はどの人も煙草をベランダで吸っていた。しかし、一度として僕は彼ら隣人に会ったことがない。壁一枚隔てて、あんなに近くにいたというのに。
そんなことを今でも煙草の臭いを嗅ぐと、思い出す。


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