【書評】撮ってはいけない家

撮ってはいけない家
矢樹純
2024年11月11日 第1刷発行
株式会社講談社

いつものように本屋さんで怖い本を探していた僕の目に「矢樹純」という文字列が飛び込んできた。はて、この作者、どこかで見たことがあるぞ、とよくよく考えてみると、10年くらい前に矢樹純の作品に出会っていた。僕が矢樹純作品を初めて読んだのは「禁忌-絶対にやってはいけない13のこと」と言う漫画であった。原作が矢樹純で漫画が加藤山羊、彼女らは実の姉妹だそうだ。一話目の少年が安心して振り返ると怖い怖いお化けがバーっと出てくる話は心臓が止まるかと思った。その他キレの良い怖い話が盛りだくさんであったと思う。近いうち、このブログでご紹介しようと思う。
10年の歳月を経てこの著者の本を手に取ったわけだが、中々に怖かった。僕は、部屋を真っ暗にして、寝床に潜り込んで、ライトで手元を照らし、読書をする癖がある。この本を読んでいる最中、何回その真っ暗な部屋を見渡したか知れない。それほどに、じわじわと、心地の良い鳥肌がたつ作品であった。

¥1,826 (2025/11/20 22:35時点 | Amazon調べ)
目次

あらすじ

ねえ、阿南君。この《生首》の話、あといくつ聴かないといけないの?

矢樹純 [2024] 『撮ってはいけない家』 p.4

映像制作会社キュープロに所属する佑季と阿南は来週に放送予定のホラードラマ「赤夜家の凶夢」のロケハンと主なロケ地である民家の所有者との打ち合わせの為、山梨へ向かっていた。東京では味わえない大自然、笑顔で迎えてくれた民家の住人、そして庭の一番奥にひっそりと存在する蔵。そして二人が覚えた奇妙な違和感は、これから始まる惨事の序章に過ぎなかった。

書評

!! 下記ネタバレを含みます !!

《鬼の鏡》は、修験道のある一派に伝わる秘術によって作られた呪物で、その中でも相当に力が強く、忌まわしいものだそうですね。

矢樹純 [2024] 『撮ってはいけない家』 p.187

本の帯の、背表紙にあたる部分には「伏線回収ホラー」と印字されている。最初はなんじゃそらと思っていたが、読了後、なるほどそういうことかと腑に落ちた。本作には至る所に伏線が張り巡らされている。「無数の地蔵」「様変わりする犬」「蔵の二階」「昴太の奇妙な夢見」それらのちぐはぐな謎は、物語が進むにつれて氷解していく。謎の顕在化、謎に関する情報、謎の推理、謎に対する回答、らの要素を提示する方法や順番が秀逸で、常にドキドキしながら楽しむことができる。長編にありがちな中だるみのようなものも一切なく、最後まで夢中になれる作品である。
この物語の元凶、というか呪いの発端とは何だろうか。征三であろうか、育子であろうか、戦後の混乱に乗じて、彼らが犯した大犯罪、そして時が流れ、育子はその真相につけこみ揺さぶりをかけてくる人間達を殺し、挙句の果てには美津までも手にかける。しかしその発端は「鬼の鏡の呪い」であると言える。それが祀られていた蔵で赤子をひねる育子は、鏡を通して見てしまったのだろう、「鬼の鏡」が作られるときに生贄となり、怪異に成り果てた者を。それは無垢な魂を求め、果てしなく呪いを拡散させるこの「怪異」こそが、物語の元凶であったのだ。そして、その発端は「鬼の鏡」を祀ることにより「鬼眼」の恩恵を得ようとした白土家の欲望が成した事であるのは、言わずもがなである。
最後の紘乃のシーンは件の怪異の呪いが途絶えていないことを示唆する。鬼の鏡を元ある場所へ戻したとしても、レンズを通して撮影した映像物の中に、怪異を観てしまった紘乃はすでに呪われていたのだ。まさにこの家は「撮ってはいけない家」であったと言える。「赤い女」に対する認識の錯誤を用いた、非常に素敵な終わり方だと感じた。

ところで、この本の冒頭の見返しをめくると、何やら意味深な写真が一枚挟んである。真っ暗な和室で、テーブルを囲んで座る6人の人間達。その中央に座しているのは征三夫婦であろうか。だとすると向かって左側の若い夫婦は寿江の両親であろう。そして、右側の男の子たちは12歳で命を落とした白土家の仏壇の位牌に名前を刻まれていた子たちと推測できる。この写真は白黒の写真なのか、演出で白黒になっているのかよくわからない為撮影された時期は不明であるが、いずれにしても日本の家庭にカメラが普及した年代を考慮すると、少なくとも左側の夫婦が征三夫婦でないことは分かる。
そしてこの写真にはもう一つ奇怪な点がある。それは、テーブルに並べられているコップの数と、写真に写っている人間の数が同じでないという点だ。しかしよくよく考えてみると、この写真を撮った人間がいるはずだ。なるほどその人の分の飲み物なのだろう。では、その人間とは誰か。それはおそらく「照子」であると考えられる。征三が「鬼の鏡」を手放したのは照子が死んだ後なので、この時点ではまだ蔵にはそれが祀られているが、照子はカメラの「レンズ」でこの家を撮ってしまったのだ。彼女はこの瞬間にレンズを通して何かを見てしまったのではないだろうか。つまり、この写真は照子が呪いを受け「卵巣皮様嚢腫」発症する発端となった写真なのだ。この写真のどこかに、あの「怪異」がいるかもしれない。「何だこの写真~」とまじまじと写真を見つめる我々読者を、ほくそ笑む作者の顔が浮かぶようだ。無論それはそれで、心地よいのだが笑

まとめ

はよ….はよ紘乃にべっ甲ぶちの眼鏡かけてやって….
と思ったのはきっと僕だけじゃないはず…


よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次