【書評】呪いのレストラン

怪談レストラン⑫呪いのレストラン
怪談レストラン編集委員会・責任編集 松谷みよ子
絵 かとうくみこ
2000年6月20日 第1刷発行
童心社

怪談レストランシリーズ全50巻あるうちの第12巻目、呪いのレストラン。
表紙には青白い炎が揺れる蝋燭を頭に鉢巻きで固定し、金槌と釘を持った「ザ・丑の刻参りガール」と言わんばかりの元気いっぱいの女の子と、目口がある藁人形が描かれている。
彼女の名はのろちゃん、そしてその手に握られてい藁人形はわらちゃん。
彼女らは呪いのレストランの案内役なのだ。
仲良さげな雰囲気を醸し出しているが、のろちゃんの手に持たれたぶっとい釘がわらちゃんを貫くと思うと、いたたまれなくて夜も眠れない。

目次

あらすじ

ようこそ 呪いのレストランへ

怪談レストラン編集委員会 [2000]『呪いのレストラン(怪談レストラン)』p.2

呪いのレストランは和風とも、洋風ともいえない外観を呈している。気になるのは「YOMEKO RESTAURANT」の看板と、稲穂が刺さった壺のようなオブジェだ。どうやらこのレストランの正式名称は「よめこレストラン」のようだ。詳細については「呪いのレストランができたわけ」で言及されている。「稲穂」についても重要な要素と言える。
読者はゲストとなり、当レストランでお料理(お話)をいただくのである。
作品は全13話のオムニバス形式で描かれ、内3話は呪いのレストランに関する話、内10話は広義のホラーに関する話で構成されている。「呪い」に関する話が多めの印象。p4-5 レストランのメニューを模した目次が非常に面白い。

メニュー

最初のおはなし 呪いのレストランのできたわけ (松谷みよ子)

この田んぼに、二度と草ははえるな

怪談レストラン編集委員会 [2000]『呪いのレストラン(怪談レストラン)』p.15

呪いのレストランの正式名称である「よめこレストラン」ができた理由がわかる。
嫁に来てくれた女性に意地悪する姑と言うのは、人間の嫌なところを具現化したような存在である。自分が偉いとでも思っているのだろうか。そしてこのような場合、一緒に住んでいる旦那は大抵助けてくれない。

白い手のおはなし ふしぎなロビー (松谷みよ子)

そのとき、わたしは、ずうっとがまんしてきた、あることをおもいだしたのです。

怪談レストラン編集委員会 [2000]『呪いのレストラン(怪談レストラン)』p.25

呪いのレストランのゲストである女の人が誰かを呪う話で、これはどんなに良い人でも、呪いたい人の一人や二人いるということを示しているのだろう。

あなたには、呪いたい人はいますか?
僕には、いますよ(ニヤニヤ)

呪いのつえ (岡野久美子)

あの呪いはね、「さかさづえの呪い」っていうんだよ。

怪談レストラン編集委員会 [2000]『呪いのレストラン(怪談レストラン)』p.36

坊さんが油屋にかけた呪いは恐ろしいが、悪いのは圧倒的に油屋の人間である為、スッキリする話である。ただでさえ金持ちなのにも関わらず、さらに金を求めてしまう人間の欲の深さを描いていると言える。本当に、欲望というのは罪深い。

きられたイチョウの木 (水谷章三)

たいせつな木だということは、じゅうぶんこころえております。しかし、これをきることによりまして、校庭をひろげることができます。子どもたちに、のびのび運動させることができます

昔は、この手の話を聞くと、木を切ってしまう人間が悪い!と声高々に叫んでいた僕であったが、今は必ずしもそう言えないと感じる。校長先生には校長先生の言い分があったのだろう。人間と怪異が共存する未来は、まだ遠そうだ。

みたなぁ (常光徹)

白い着物をきて髪をふりみだした女が、ワラ人形につきさしたながいくぎにむかって、つちをふりあげています。

怪談レストラン編集委員会 [2000]『呪いのレストラン(怪談レストラン)』p.52

こういった場合、なぜ彼らは「トイレ」に逃げるのだろうか。いくら個室になっているとはいえ、トイレに入るのを怪異や犯人に見られたら、袋のネズミになってしまう。
そしてこの類型に属する怪談の怖いポイントは、被害者が隠れる個室の隣の個室が怪異によって確認されてから、被害者の心臓が平常運転になり、ほっと一息つくまでの時間、怪異がその一部始終を上からずーっと眺めている点にあるのだ。それは怪異が、5分ないし10分、トイレの個室の上によじ登って被害者を静かに眺め続けるという異様な行動にこそ、狂気と恐怖を掻き立てる種が存在しているということに他ならない。

コンビニののろいグッズ (望月正子)

もしかして、これだけ本物だったりして…

怪談レストラン編集委員会 [2000]『呪いのレストラン(怪談レストラン)』p.61

この話は当時小学生の時に読んだのを今でも覚えている。「のろいグッズ」なるものを「コンビニ」で「小学生」が買うというところがなんとも印象的だった。二人が執り行った丑の刻参りの実施時間帯や、その人数に多少疑義は残るが、真っ暗な押入れの柱に友達と藁人形を打ち付ける様は奇妙で、とても良い。

平四郎虫 (岩崎京子)

おら死んだら虫になって、うらみをはらす

怪談レストラン編集委員会 [2000]『呪いのレストラン(怪談レストラン)』p.78

この時代、平四郎のように、無念のうちに死んだ人間はたくさんいたことだろう。まさに、呪い溢れる時代だ。虫の大発生を平四郎の祟りとする想像力と、冤罪の果ての打ち首という野蛮な刑罰には何とも言えない矛盾があるように思う。呪いが常日頃から成就していたのであれば、早々打ち首になどしないだろうから、呪いは必ずしも成就するわけではないということだろうか。

ねこの浄瑠璃 (宮川ひろ)

ベンカ チャンカ ペンカ チャンカ オー オー ミャア

怪談レストラン編集委員会 [2000]『呪いのレストラン(怪談レストラン)』p.82

まず化け猫云々の前に、次いつ回って来るかわからない浄瑠璃語りのステージに、嫁を連れて行かず、一人で留守番させる姑の意地の悪さ、いざ嫁が猫に呪われたら呪われたで嫁を取られたくないものだから、嫁を軟禁する浅はかさ、猫がたまたま落雷で死んだあと「やれやれ」とほっとする浅ましさ。全てが鼻についてしまってお話が頭に入ってこなかった笑
これで嫁の奴隷のような日々がまた始まってしまうのだ。
姑は「猫は魔物」と言っていたが、このセリフはひょっとすると逆に本当の魔物は人間なであることを示唆しているのかもしれない。

呪われた王女 (杉本栄子)

ああ、ああ、あなたは運をにがしてしまったわ。あなたのチャンスはたった一度だけだったのに。わたしは、またながいあいだ、くらい城の中でまたなければならないわ

怪談レストラン編集委員会 [2000]『呪いのレストラン(怪談レストラン)』p.97

城もろとも呪われてしまった王女が、呪いを解いてくれる人間が来るのを待ち続けているわけだが、彼女、ないしは城の城主はいったい何をして呪われてしまったのだろうか。美しい王女が、蛇に化けていることから、蛇に化けた神様のような存在を「蛇」であるからという理由で、彼らが殺してしまったことに起因する呪いであるのかもしれない。

死の水 (斎藤君子)

死の水って、しってるかい?ロシアでは、死んだ人のからだをふききよめた水のことを死の水っていうんだ。

怪談レストラン編集委員会 [2000]『呪いのレストラン(怪談レストラン)』p.100

様々な疑問が残る作品だ。
まず、ひとりぐらしの女は、なぜ奥さんを妬んだのか。いくら奥さんが子供を産んで幸せの絶頂であったことが疎ましかったとはいえ、殺そうとまで思うものかどうかという点についてだが、女には早くに亡くした子供がいたり、奥さんの旦那に対して想いを寄せていたりと、種々の妄想が膨らむ。
そして、夫がソロモンじいさんとのやりとりの中で、水に映った女に対して復讐をしなかったことはどんな意味を持つのか。これは、所謂「人を呪わば穴二つ」という言葉にもあるように、もし夫が女に対して復讐をした場合、途端にその呪いが夫にも跳ね返っていたのではないだろうか。
最後に、なぜひとりぐらしの女は二人に対して自らが呪いをかけたことを認め、謝罪してきたのか。これについては完全に想像になるが、女の呪いが解かれ、呪いを返されたことを女が何等かによって知った可能性があると言える。

へびの呪い (剣持弘子)

おぼえておけ!おまえはおれのしっぽをうちおとした。仕返しに、おまえの牧草地に呪いをかけてやる。

怪談レストラン編集委員会 [2000]『呪いのレストラン(怪談レストラン)』p.117

蛇を殺すには頭を潰せという言葉を思い出した。

デザート ひらめになれ (松谷みよ子)

あたしだけ、ひらめにはならないわ、あんたもひらめになるの

怪談レストラン編集委員会 [2000]『呪いのレストラン(怪談レストラン)』p.124

一風変わった作品だ。呪いは伝播することを示唆しているのだろう。この話を「デザート」にもってくるところがいやらしくてとても好きだ。目次における「ねこの浄瑠璃」の説明文が「あわれ味、魚たっぷり、ペンカチャンカなべ」であることから、おそらくこの料理に「ヒラメ」が入っていたのではなかろうか。

要は、もう我々は手遅れなのである。

最後のおはなし よめこ幽霊のねがい (松谷みよ子)

はい、でもみなさんが、わたしのことをおもいだしてくださるので、もう、うらんだりしていません。しあわせです。どうか、世界じゅうの、うえている人たちや子どものために、このちょうちんを、ときどきつけて、夜の道をあるいてください。

怪談レストラン編集委員会 [2000]『呪いのレストラン(怪談レストラン)』p.132

よめこの呪いは収束したようだ。世に蔓延る呪いも収束させる事はできるのだろうか。

まとめ

僕はこの手の呪いの話を聞くと、幼少期に経験したある怖い話を思い出す。

僕が小学校中学年の頃、友達であるE君の家に遊びに行った時の話だ。学校が終わって、E君の家に上がらせてもらって、お菓子やジュースを食べながら何かのビデオを見たり、E君の自慢のおもちゃコレクションを見せてもらったりしていた。おもむろにE君は立ち上がり机の引き出しをガサガサやって、何枚かの写真を取り出した。
「これ見て見て」
笑顔のE君はそれらの写真を僕に見せてきた。それはクラスメート数人で写っている写真だったが、妙であった。そこに写るある一人の友達の顔に画鋲で刺したような穴が無数に開いていたのだ。見せてくれたどの写真も、顔を認識するのが難しいほどに、彼の顔にはポツポツと穴が空いていた。するとE君はどこからか画鋲を持ってきてその写真に追加で穴を開け始めた。
「俺こいつのこと本当に嫌いなんだよね、早く死ねばいいのに」
E君は半分本気のような、半分冗談のような表情で、写真に穴を開けていた。
そして最後に「この事は内緒ね?」と言ってきた時のE君の笑っていない目が、怖かった。


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