【書評】夜市

夜市
恒川光太郎
2008年5月25日1 初版発行
角川書店(角川ホラー文庫)

僕が「夜市」を読んだ回数は三回である。
一回目、初めて読んだのは僕が大学生の時、何かのまとめサイトで怖い小説を探していた時に見つけて、購入したのだ。ネットの評価も高く、何しろ日本ホラー小説の大賞受賞作品ということもあり、わくわくしながら読んだのを覚えている。しかし、所感としてはあまり面白くなかった、というか全然記憶に残らない作品であったのだ。そして二回目、社会人になって間もない頃だ。通勤の行き帰りの電車の中で読んだと思う。しかしこれまた、所感は一回目のときと同じで面白いと思った記憶がないのだ。そして本稿を書くための、三回目の書見で今までの所感がひっくりかえることとなる。

面白いのだ。最後に読んでからほぼ十年ほど経っているが、今読むとびっくりするくらいに面白い。

よく考えれば、作品に触れる時期やその時々の精神状態によって、作品の感じ方や評価が変わるというのは間々あることではある。それにしても、この作品はそのギャップが大きい作品であったといえる。
今作は表題作「夜市」のほか「風の古道」を収録している。書評としては「夜市」のみ記述しようと思う。
第12回日本ホラー小説大賞大賞受賞作品。

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目次

あらすじ

夜市が開かれるそうなんだ

恒川光太郎 [2008] 『夜市』 p.10

アパートで一人暮らしの裕司の部屋に初めて招かれたいずみであったが、部屋についたのもつかの間、裕司の提案で「夜市」を見に行くことになる。夜市とは、秘密のフリーマーケットのようなものらしい。裕司はそこに一体何を買いに行くのだろうか。

書評

遠い昔、約束をしたね

恒川光太郎 [2008] 『夜市』 p.88

作品の冒頭「学校蝙蝠」の部分で大きく引き込まれた。
学校蝙蝠という絶妙な表現が現実と虚構のはざまという感じがして良い。この塩梅を間違えると、ファンタジー色強めの作品になってしまったり、物語全体の雰囲気を大きく変えかねないだろう。

裕司は弟と引き換えに手に入れた野球の才能によって、めきめきと野球が上達した。しかし、そんな彼の心には常に弟の影がちらついていた。夜市の効力によって弟が初めからいないものとされた世界で、周りから妄想狂を疑われ、頭がおかしいと言われ、弟など最初からいなかったと自分に言い聞かせる裕司だったが、野球が上達すればするほどに、「弟を売った」ことがより現実実を帯びて彼を襲い、苦しめるのだ。そしてこの夜市の効力が及ぶ範囲を夜市の外の世界すべてとした点もなかなか巧い設定である。当の本人はいつまでもその事を覚えているのだ。

裕司が積極的な死を意識するようになったエピソードにおける、彼女の発言も興味深い。もし彼女が、裕司が野球選手になる(もしくは野球をつづける)ことの理由を、例えば弟への罪滅ぼしなどといったようなことと関連付ければ、未来は変わったのかもしれない。彼女が口にしたその理由があまりにも野卑であったことから、裕司はもうすべてがどうでもよくなってしまったのだろう。無論、そのためには裕司が彼女に夜市でのことを伝え、納得してもらう必要があるが。
そして、このエピソードは裕司が永遠に夜市に残ることの根拠の一つとなる。彼の目的は弟と現世に帰ることではなく、弟を解放することそのものだったのだろう。

弟の口から語られる、十年間のエピソードも夜市の効力や特性と密接な関わりを持っていて、世界に引き込まれる。彼はずっと人攫い退治の策を練っていたのだ。同じ十年という期間であっても、兄と弟が過ごしたそれは天と地ほどの差がある。「罪悪感」が人を変えてしまうことを示唆しているのだろうか。
作品のラスト、いずみがいずれまた夜市に行くことをほのめかしているが、彼女の中で、裕司の記憶が薄れていく理由については、今いち判然としない。

まとめ

昨今色々なところでフリーマーケットが開かれている。中古品や食べ物、アートなもの、造ったものなど、様々な商品が溌剌とした人間達によって自由闊達に売買される風景は、活気を感じ、マーケットを見てまわるだけでもわくわくするものだ。

僕もこの前代々木公園で開かれていた「INSPIRE TOKYO 2025 WINTER」に遊びに行った。というか、たまたま代々木公園で散歩していたら見つけたのだが笑

この寒い中、アイスミルクティーを買ってしまった為、身体冷え冷え案件勃発

3日間のライブのタイムテーブルが組まれていてどちらかというと音楽系の催しであると思われるが、ちゃんと「マーケット」としての要素もあり、たくさんのクリエイターが腕を振るっていた。

こういうところに並ぶ商品は「一期一会」的側面を持ち合わせているため、ここで買わなかったらもう二度と会えないかもしれないと思わせてくれる。そんなエモいところもフリーマーケットの大きな魅力の一つと言えるだろう。

僕は「夜市」に行ったら何を買おうかな。


  1. 初出は月刊誌「小説 野性時代」(KADOKAWA) 2005年7月号掲載 ↩︎
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