【考察】穢れた聖地巡礼について

穢れた聖地巡礼について
背筋
2024年9月3日 初版発行
KADOKAWA

背筋作品はいつも楽しく読ませていただいている。
彼の作品は良い意味でエンターテインメント性があり、考察の余地も存分にあるため、非常に好きだ。
過去に、「近畿地方のある場所について」や「口に関するアンケート」について、考察記事を書いたので、読んでいただけたら幸いである。


さて、今回は「穢れた聖地巡礼について」の考察記事を書こうと思う。
どうでもいいが、「近畿地方のある場所について」と並べるとスイカを連想してしまうのは僕だけでしょうか。(赤いスイカと黄色いスイカ…)

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目次

あらすじ

とりあえず、天下のKADOKAWAの編集者にご納得いただけるような企画の内容を相談しないといけませんね

背筋 [2024] 『穢れた聖地巡礼について』 p.21

心霊スポット突撃系ユーチューバーである池田は、フリー編集者の小林から、自らの公式ファンブック企画を持ちかけられる。彼のチャンネルの動画から、人気のある動画をピックアップ・再調査を行い、読者が喰いつきそうな考察を拵え、「オカルトヤンキーch 公式ファンブック」の編纂に着手するのだが。

考察

物語の大枠

まず最初に、本作の骨格となっている昔話について記述する。

「異人殺し伝承」

こんな晩だったなあ、お前が俺を殺したのは

背筋 [2024] 『穢れた聖地巡礼について』 p.252

怪談好きでなくても、この話を聞いたことがあるという方は多いのではなかろうか。要点だけ簡単に言うと、殺された六部が、彼を殺した夫婦の間に子供として転生する話だ。この「転生した子供」について、実際に六部と妻との子供であったとか、罪の暴露の時一瞬だけ六部の霊が子供に乗り移ったとか種々の可能性について本作で言及されているが、実際にこのような説は聞いたことがない。とにかく、ここで大事なのは「被害者が、加害者の子供として生まれ変わっていること」である。

次に、「六部」とは一体なんだろう。これも簡単に言うと、自分で写経したお経を全国六十六か所のお寺に納めるべく行脚をしている者のことだ。その目的は功徳を積むためだと考えられるが、布教をするためという見方もできる。要は、良いものを積み、良いものを布教するために全国を廻るのだ。そう、これぞまさに「聖地巡礼」なり笑。

タイトルより「穢れた聖地巡礼」について

さて、本作のタイトルにもなっている「穢れた聖地巡礼」という言葉について触れる。ここの言葉を、「穢れた聖地」の「巡礼」と分けるとわかりやすいだろう。「聖地」とは、おそらく昔、お寺など六部が廻った拠点を指すと思われる。では、「穢れた」とは何か。その謎を解くヒントとして以下2点挙げる。

本作第四章輪廻ラブホの中の一節。

私は廻った。昔、神様がいた場所を。今や、宿痾たる人間の欲で穢れた聖地。

背筋 [2024] 『穢れた聖地巡礼について』 p.227

この一節から、かつて六部が廻った聖地だった場所は、「人間の欲」によって「穢れて」しまったことが分かる。つまり、本作に登場する「変態小屋」「天国病院」「輪廻ラブホ」などの心霊スポットは、皆かつての六部が廻っていた聖地であることが推測できる。1そしてそのことに少し言及しているのが次の一節だ。

本作『穢れた聖地巡礼について』刊行記念書き下ろし掌編「私の夢」の中の一節。

小林「確かにお願いの内容に見合った対価は払えてないよな。特に現代人は」
宝条「神様もそこまで優しくないから、あんまり無理なお願いすると荒魂になってまうからな」
池田「荒魂?」
宝条「そう。自分の場所を穢されて、怒りはるんよ。そうなったら怖いで」

背筋 [2024] 『私の夢』

カクヨムにて無料で読めるので興味のある方は、是非一読されることをお勧めする。
宝条が言っているのはあくまで実家の神社のことではあるが、この「神様にあんまり無理なお願いをすると怒って荒魂となる」ことは他の聖地の神(や仏)に関しても類推適用することができよう。おそらくここでは神様と呼ばれる存在がもつ荒魂と和魂という二面性を強調したいのだろう。
もともと「聖地」と呼ばれていた場所も、人間の欲のせいで神様が怒り、「穢れた聖地」となってしまったのだ。
(必要なら繰り返される人間の呪いの連鎖という負の感情が神様の機嫌を損ねたということを強調して書きたい。敬一の元カノは巡礼することがいいことのようにいっているが、神様からしたらとんでもないはなしなのだ。)
ではこの「宿痾たる人間の欲」とは何だろうか。欲と言えば、それは種々色々挙げられるだろう。その中で、はるか古来より人間社会に密接に絡み合ってきた欲、それは人間が人間を恨み、殺したいと願う欲である。

風船男について

その穢れで脳漿を満たし、罪を贖うことで、清麗な私として生まれ直すために。そして、私の代わりを見つけるために。

背筋 [2024] 『穢れた聖地巡礼について』 p.227

本作の裏表紙や、カバーを取ると現れる怪異「風船男」。彼の正体や目的について記述する。

正体

加害者がもつ「人間が人間を恨み、殺したいと願う欲」をその脳漿に引き受けたことにより、頭が膨らんだ怪異。「風船男」という名前のほかに「満月さん」という名前で呼ばれていたり、「男」ではなく「女」バージョンもいたりする。

目的

彼らが向かう場所は「穢れた聖地」である。2
その目的を大別すると、「加害者の子供として転生する」「自分の代わりを探す」の二つに分けられる。そしてその動機は、前者は頭に詰まった呪いを消し、まっさらな状態で生まれ変わることであり、後者は自分が受けた呪いの輪廻を絶やさないことである。
元々、功徳を積み、良い教えを布教する六部のなれの果てといえるだろう。彼らはいつからか、呪いを積み、呪いを布教する存在になってしまったのだ。

本作の構図

以上、本作の大枠を捉える為に「六部殺しの概要」「穢れた聖地巡礼の意味」「風船男の概要」について触れた。以上を踏まえて本作の総論的部分を図として整理する。

図の説明

①:加害者が被害者を呪うべく穢れた聖地を訪れる。
②:加害者の呪いが成就する。
③:加害者の呪いを被害者が一手に引き受ける
④:風船男に変貌した被害者は穢れた聖地への巡礼を開始する。その途次、転生した人間に「呪いの勧誘」をする。
⑤:巡礼が完了する3と風船男は、加害者の子供として転生する。
⑥:風船男から「呪いの勧誘」を受け、加害者になる。
⑦~:①~⑥までの工程が半永久的に繰り返される。
さて、本作は「オカルトヤンキーch 公式ファンブック」を編纂する小林、池田、宝条たち三名のやりとりと並行して、掲載する心霊スポットに関する情報が展開される。そして各々の場所に関連する、呪った者、呪われた者が登場する。以降各論として、心霊スポットに関しての情報を整理する。

聖地とそれに関連のある人間の話

変態小屋

呪った者:
京本幸江(旧須藤幸江)

呪われた者:
京本涼子

呪った者が見た風船男:
幸江の前に幼いころ夢の中に出てきた「神様」が現れ、呪いの勧誘を受ける。

呪われた者が風船男になった描写:
写真に写った涼子の顔が膨らんでいた。

転生先:
京本幸江の子ゆか

本作を理解する上で重要な要素が揃っている章であるといえる。

天国病院

呪った者:
律子

呪われた者:
律子の祖母

呪った者が見た風船男:
天国病院の回廊にて、律子は幼いころ夢に見た「死神」と遭遇し、呪いの勧誘を受ける。

呪われた者が風船男になった描写:
祖母が風船男になったあとの描写は見当たらない。

転生先:
律子の子

「ゼロ磁場」の概念が登場する。
被害者のスマホを利用し電話をかける風船男、自殺したナースの内線番号からかかって来る電話、Sの携帯にかかってくる死んだ友達からの電話など、穢れた聖地と、ゼロ磁場が互いに混ざり合って、新たな怪異を形成していると考えられる。

輪廻ラブホ

呪った者:
敬一

呪われた者:
敬一の元カノ

呪った者が見た風船男:
敬一が風船男を見た描写は見当たらない。

呪われた者が風船男になった描写:
敬一の元カノがトラックに轢かれて死んだあと、彼女は風船男となって、穢れた聖地を巡る描写がある。

転生先:
敬一の子4
こちらについても、一階の絵を取り巻く本来の穢れと、二階の絵を取り巻く聖地巡礼的穢れが互いに混ざり合い、独特な噂の温床になっている。敬一の「石を投げる」という行為は、二階の絵にまつわる噂と関連があると思われるが、その場所が異なっている。対象の写真を投げ入れる変態小屋、回廊を左周りする天国病院と、前2か所では「呪い」を行う場所が聖地であったのに対して、輪廻ラブホはそうではない。その意図や意味としては判然としない。

池田について

結局、池田も風船男の生まれ変わりであった。
作中で彼が「浅はかな巡礼者」と表現されているのは彼が「意図せず」穢れた聖地を配信者として巡礼していたからであろう。そして優子という本作最大の架空の存在に踊らされ、知らず知らずに風船男との邂逅を果たしてしまう。
彼が、学生時代に行った降霊術「カナエさん」とは何だったのだろうか。風船男の生まれ変わりである彼には、人を呪い殺す才能があったにもかかわらず、カナエさんを使って優子にかけた呪いは効力を示さなかった。これはつまり、「穢れた聖地巡礼」と「カナエさん」という二つの概念における、呪いの真偽を強調したかったのではなかろうか。
まあ、カナエさんが我々読者へのブラフだったと言ってしまえばそれまでだが。

「あなたの番」とバトンを渡された彼は、どんな相手を呪い殺すのだろうか。
今度こそ本当に優子を呪い殺すのだろうか。

最後に、以上4名(幸江、律子、敬一、池田)の共通項として「孤独」であることを挙げる。
幸江は「親も、友人も、恋人も、要領も、才能も何も持っていない人間」であり、律子は「養子」であり、敬一は「勘当」されていて、池田のシングルマザーである母は自殺をした。それはそれぞれの親が、かつて自らが呪い殺した者の生まれ変わりであることを知ってしまったからだ。
本作は「お前が俺を殺したのはこんな晩だったな」といって終わってしまう「異人殺し伝承」の「続き」を妄想することを皮切りに紡がれた作品なのではなかろうか。

まとめ

考察としてこの記事を書き始めたのだが、なんだかとっちらかったままで終わりを迎えそうだ。物語の大枠と、章ごとの共通点を軽くまとめる程度のものとなった。メインメンバーである小林と宝条についても深入りしようとも思ったのだが、物語の骨子には関わっていなさそうなのでやめることにした。(べっ、別にまとめるのが大変になってやめたわけじゃないんだから////)

作品を読んだ後の酒の肴として、本稿を読んでいただけると幸いである。


  1. 例えば変態小屋が建っているあの地域には「六部地蔵」と呼ばれる地蔵があり、「六部殺し」の民話が伝わっている。
    背筋 [2024] 『穢れた聖地巡礼について』 p.269 ↩︎
  2. かつて彼らが廻った聖地の中に、「黒い岩の周りで人がぴょんぴょん跳びはねている」描写が登場する。これは「近畿地方のある場所について」に登場する「岩」を指していると思われる。作中にてこの岩は拠点を変える為、彼らが見た描写がどこの描写かは判然としないが、札屋敷でない可能性は高そうだ。 ↩︎
  3. 完了の定義は不明である。少なくとも敬一の子供として生まれ変わる風船男は、六十六の聖地を巡ったようだ。
    背筋 [2024] 『穢れた聖地巡礼について』 p.227 ↩︎
  4. 敬一の子供の描写は見当たらない。 ↩︎
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