学校の怪談② 放課後のトイレはおばけがいっぱい
日本民話の会 学校の怪談編集委員会
絵 ワタナベ・コウ
1991年8月 第1刷©
株式会社ポプラ社
ついにこの作品群の書評を書く時がやってまいりました。僕らの世代は皆一回は読んだことがあるのではないでしょうか。小学校の図書館には必ず置いてあったことでしょう。全国の小学生を恐怖のどん底に突き落とした名作中の名作。
ポプラ社の「学校の怪談シリーズ」
本作は全19冊(通常巻15巻+学校の怪談スペシャル3巻+学校の怪談大辞典1巻)ある学校の怪談シリーズの内の一冊であり、全12話のオムニバス形式で描かれそのほとんどは「トイレ」に関する話で構成されている。
書評
ノックがきこえる (桜井信夫)
だから、やっぱりノックがあったんです。
日本民話の会 学校の怪談編集委員会 [1991]『学校の怪談② 放課後のトイレはおばけがいっぱい』 p.18
ノックと微かなうめき声というささやかな怪奇現象が起こる。トイレに関する怪談を盛り込んだ絵本のしょっぱなの作品としては、コース料理の食前酒のような優しさとスタンダードさがあってとても良い。
哲夫にノックを返した怪異と、うめき声をあげていた怪異は同一なのだろうか。また、哲夫が先生たちと戻ってきたあとで個室トイレのドアがすべてしまっていたことは、ノックがあったことの根拠にはなりえないのではないかという考えは「揚げ足取り」だろうか。
花子さん 太郎さん やみ子さん (岩崎京子)
学校のトイレは、やっぱりきび悪い。
日本民話の会 学校の怪談編集委員会 [1991]『学校の怪談② 放課後のトイレはおばけがいっぱい』 p.22
花子さん、太郎くん、やみこさんという「トイレの怪異オールスターズ」が登場する話だ。花子さんが3番目のトイレに住み着いていること、太郎くんの噂の発端は花子さんに対抗する為に男子生徒がついた嘘であるという説に触れていること、やみこさんが赤ちゃんを渡してくるというマニアックな言動が描かれていることなど、彼らを論ずる上で重要な情報がちりばめられている。
ヤミコさんと言えば「学校のコワイうわさ 花子さんがきた!! 」に登場するヤミコさんが真っ先に思い浮かぶ。
皆さんにとってのヤミコさんは、どんなですか?
赤い紙 青い髪 (望月正子)
あか~い紙をほしいか。あお~い紙をほしいか。
日本民話の会 学校の怪談編集委員会 [1991]『学校の怪談② 放課後のトイレはおばけがいっぱい』 p.41
所謂怪談の赤い紙、青い紙の原点になるであろう話だ。この話を基点として、様々派生していったのだろう。この話では怪異の出現条件として「個室のトイレットペーパーがきれていること」が挙げられる。このことは当時全国の小学生が個室でふんばる前の「やることリスト」にしっかり記載されていたことだろう。たまたまそれを忘れたコウタと怪異が相まみえ、幕を閉じるラストシーンは読者の「このあとコウタはどうなっちゃうんだろう」という妄想を掻き立てている。
有名な、赤い紙を選んだら刃物で刺され血だらけにされ、青い紙を選んだら体中の血を抜かれて真っ青になる、という設定や黄色い紙の存在、ムラサキババアの出現等の設定は、後で発生したものだと考えられる。
ムラサキババア (針谷美智子)
ムラサキババアがでたら、なんでもいいからむらさき色のものを持って、
日本民話の会 学校の怪談編集委員会 [1991]『学校の怪談② 放課後のトイレはおばけがいっぱい』 p.43
「ムラサキ、ムラサキ…。」といえば消える、というのです。
登場場所は天井に開いた穴からという意外性をもつ。
当時小学生だった僕の家には紫色のものが皆無で、トイレの個室に入る際は、常にびくびくしていたものだ。「紫色」の物にはある種の魔除けの効力があることを示唆している。その一方で、「ムラサキカガミの噂」ではムラサキは不吉なもの、死の象徴として描かれる。いずれにしても、「紫」というのはそういう超自然的な概念を孕んだ色であるといえる。
青ぼうず (水谷章三)
女子の便所に、ドッジボールのボールがおっこちてるんだって。
日本民話の会 学校の怪談編集委員会 [1991]『学校の怪談② 放課後のトイレはおばけがいっぱい』 p.50
ボットン便所の便槽に現れる丸坊主の怪異の頭部がドッジボールのボールに見えるという点が、小学生特有の錯誤であるなと感じた。僕も小学生の頃は狂ったようにドッジボールに明け暮れていたのを懐かしく思う。二限と三限の間と、お昼休みに20分休みがあり、終鈴と共に外へ飛び出し、校庭でクラスメイトと汗を流すのだ。それと「20分」という時間の長さの感じ方が変わったことに驚いている。あの頃の20分は本当に長く感じたものだ。これからますます時間の経過を短く感じるようになっていくかと思うと、寂しいものがある。
この怪異については、何をするでもなく「女子トイレ」の便槽の中から外を見上げているわけだが、男であると言うその性別も鑑みると、ある種の変態怪異だと思ってしまったのは、僕だけだろうか。
そしてかの有名な「福島女性教員宅便槽内怪死事件」を思い出してしまったのは、僕だけだろうか……
白い手 赤い手 (中村博)
はっとして便器をみたら、下のほうから、白い手と赤い手がでて、おしりをなでていた。
日本民話の会 学校の怪談編集委員会 [1991]『学校の怪談② 放課後のトイレはおばけがいっぱい』 p.62
トイレには赤い紙や青い紙、黄色い紙、白い手、赤い手、ムラサキババアなど、「色」に関連する怪異が多く登場する。本作に登場する白と赤の組み合わせの意味についてはよくわからないが、これではまるで紅白饅頭ではないか。
また、手の持ち主が一人であるのか、二人で片腕だけを出してきたのかについても、よくわからない。
おいていく気か (渡辺節子)
おれもつれてけ!
日本民話の会 学校の怪談編集委員会 [1991]『学校の怪談② 放課後のトイレはおばけがいっぱい』 p.66
トイレの怪談の背景として、もともと墓地や、刑場のあとに小学校が建ったことが挙げられているものは多い。この怪異の、対象を連れて行くのではなく、対象に自らを連れて行くよう頼む点が非常に面白い。気絶したあとに小学生が例の墓地にいたことを見るに、彼はもう憑りつかれてしまったのだろうか。
赤いはんてん (千世まゆ子)
…赤いはんてんきせましょか…赤いはんてん…
日本民話の会 学校の怪談編集委員会 [1991]『学校の怪談② 放課後のトイレはおばけがいっぱい』 p.73
非常に有名な怪談だ。明らかに怪異には悪意があり、返答を間違えると惨殺されるというスパイスの効いた話となっている。血まみれの描写を赤いはんてんを着ているようだと表現しているのはなかなか巧い。この怪異は中々のセンスがあると思われる。
さて、この教育実習生はどんな返答をするのだろうか。
お手玉をかえして (望月新三郎)
やーい、あまえんぼうのもやしっ子、ふみふみふんずけろ!
日本民話の会 学校の怪談編集委員会 [1991]『学校の怪談② 放課後のトイレはおばけがいっぱい』 p.82
トイレの怪談の源流となりそうな話だ。
それにしても、悪ガキというのはいつの時代もいるもので、困った話である。怪異が現れる要因はいつも人間が作っているのだ。戦争で蹂躙された者が、また弱い者を蹂躙するという人間のさもしさが描かれている。
まっ赤な水がながれるトイレ (渡辺節子)
大出血でだめだったんだって。
日本民話の会 学校の怪談編集委員会 [1991]『学校の怪談② 放課後のトイレはおばけがいっぱい』 p.92
何か怪異が出るわけでもなく、ただ、赤い水が流れるトイレというのも、不気味なものだ。
蛇足だが、ブルーレットの色が変わるやつで赤色になるやつを探したところ、見当たらなかった。
時計どろぼう (渋谷勲)
と、暗闇の底から、コチコチと時をきざむ時計の音がわきあがってきました。
日本民話の会 学校の怪談編集委員会 [1991]『学校の怪談② 放課後のトイレはおばけがいっぱい』 p.108
お気に入りの話。
首を吊っていた男の正体と、時計を盗むだけ盗んで、自殺する男の目的が明かされぬまま物語は終わっている。
時計泥棒を捕縛してやろうとする意志を根元から折りにくる泥棒の縊死体がいい味を出している。また、腕や太ももにびっしりとつけられた生徒たちの腕時計の描写は、想像するだけでも気持ち悪い。
あかずの便所 (小沢清子)
おい、今日から使えることになった便所が、あかないぜ。
日本民話の会 学校の怪談編集委員会 [1991]『学校の怪談② 放課後のトイレはおばけがいっぱい』 p.114
「時計どろぼう」もそうだが、トイレの個室という区切られた空間で、首つり自殺をしているというのは描写として本当にインパクトがある。視覚はもちろん、嗅覚や聴覚までもが侵される気がするのだ。
まとめ
学校の怪談において、トイレに関する怪談が多く語られる一番の理由はトイレの「個室」という造りにある。その証拠に男子トイレの立ち便器で排尿をしている際に襲い掛かって来る怪異は少ないように感じる。一度、用を足そうと便器に座れば、それが終わるまではすぐにそこから出ることができない。かつ「個室」という空間が、対象者を一人きりにするのだ。あたりを見渡せば、トイレのドアの上から何かがこちらを見下ろしているかもしれないし、便器の中から手がでてくるかもしれない。はたまた知らない声が聞こえてきて命をかけた問答を強いられるかもしれない。そういう妄想が捗るのが「トイレの個室」なのだ。その妄想を源泉として、今日までのトイレの怪談体系を構築していると言えそうだ。
僕も子供の頃は学校の怪談をたくさん読んでいたので、トイレに入るのが怖かった。僕が一番ビビっていたのは、「三本足のリカちゃん」の存在である。どういうわけか「三本足」というワードが、僕の恐怖心を煽りまくっていたのだ。なのでトイレの個室に入る際は、ヤツが現れないか、常にきょろきょろと周りを観察していた。しかし現れたら現れたで困るという恐怖のトイレジレンマタイムを過ごしていた。
最後に、僕が祖母から聞いた「チョッペロリン」という怪異について触れる。
トイレの個室に裸で入るとチョッペロリンが現れて、お尻を舐めてくるそうだ。これは、裸でトイレに入ると寒くて体調を崩すことから、裸でトイレに入るのはやめようね、と語られだした迷信であると考えられる。その名前からしてあまり怖さは感じない。そのため、当時の僕はチョッペロリンに会いたくて会いたくて、よく裸で自宅のトイレに入って待機していたものだ。
結局は会えずじまいだったが…


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