【考察】ビックリえほん

ビックリえほん
井上洋介
2008年1月20日 初版発行1
復刊ドットコム

井上洋介の絵本を読んだのはこの作品が初めてだった。
怖い絵本や、変わった絵本を収集していた僕の目に留まったのがこの絵本だ。まず、その表紙に文が書かれている装丁に驚いた。女の子のシャボン玉の吹き口からにゅーっと現れるお化けも印象的だ。
なぜ、女の子はそのお化けに怖がっていないかを考えた時に、シャボン玉のお化けはすぐに破裂して跡形もなくいなくなるからだという推測に至った。そのとき、どことなく、やんわりとしたナンセンスホラーのようなものを感じた。

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目次

あらすじ

しゃぼんだま
ぷーと ふいたらば
あれ あれ おばけが
でて きたよ
あたし ちっとも
こわくない

井上洋介 [2008] 『ビックリえほん』 表紙

本作は、全体を通して一つの物語が展開されるわけではない。見開き1ページごとにそれぞれのシーンが展開されている。
その一つ一つのシーンは、どこか不穏で、ナンセンスな雰囲気を醸し出している。

考察

ピアノの ふたを

あけたらば

しろい けんばん

は だったわ

まちがい ないわ

べろ だして

わたしに むかって

べえーっを

した

井上洋介 [2008] 『ビックリえほん』 p.13

本作の考察を書くにあたり、どのようなアプローチをしていくか、とても悩んだ。本作には長編や短編という概念に親和性はないため、詩集を読むような感覚で堪能し、全体に渡って漂っている「不穏な感じ」の正体を僕なりに言語化しようと試みることにした。

まず、本作に散りばめられている作品の数々を、下記のグループに振り分けた。

一般的な性質を適用するもの

・シャボン玉お化け
シャボン玉の性質をお化けに適用している。

・育つ人形
人間の性質を人形に適用している。

・猫
様々な生物の性質を猫に適用している。

・お化けピアノ
お化けの性質をピアノに適用している。

複数の一般的な性質を比較するもの

・親子
大小二種類の蛙の性質と親子の性質を比較している。

・かみなりさま
猫の性質とかみなり様の性質を比較している。

・歩行
歩行の性質と様々な生物の性質を比較している。

一般的な性質を反転するもの

・暴れる風船
柔らかい風船の性質を反転している。

一般的な性質を誇張するもの

・長い鞄を持つ兄弟
アタッシュケースの性質を誇張している。

・つむじ風
つむじ風の性質を誇張している。

・雨
雨の性質を誇張している。

・牛
牛のよだれの性質を誇張している。

・マドロスパイプ
マドロスパイプの性質を誇張している。

一般的な性質に錯誤があるもの

・海のような空
空を海と錯誤している。

・道のような大蛇
大蛇を道と錯誤している。

・頭だけの蛇
自分の身体を食べ物と錯誤している。

以上僕なりにまとめてみたが、何となく「不穏な感じ」の正体がつかめそうな気がしてきた。それは案外簡単なもので、少しのズレが大きな違いを生み出している点にあると言える。その「ズレ」は、誰しもが一回は脳のかたすみで意識したことがあるようなものである。例えば、ピアノの白鍵が歯に見えたり、猫のゴロゴロと雷に類似性を発見したり、牛のよだれの量、海のような空、これらの小さな異常を真面目に展開して描いたのが、本作であり、それが「不穏な感じ」の正体であると考えられる。
いずれにしても、本作と出会ったのは大人になってからだというのに、作品に漂う微量で優しい「ナンセンスさ」には中毒性があるため、定期的に読みなおしている大好きな絵本のうちの一つである。

まとめ

まぁ、とにもかくにも、「お化けピアノ」が僕はとても好きです。


  1. 文研出版より「ビックリえほん」1975年 初版発行 ↩︎
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