【書評】幽霊屋敷レストラン

怪談レストラン① 幽霊屋敷レストラン
怪談レストラン編集委員会・責任編集 松谷みよ子
絵 たかいよしかず
1996年7月10日 第1刷発行
株式会社童心社

怪談レストランシリーズ全50巻あるうちの記念すべき第1巻目、幽霊屋敷レストラン。
表紙には火の灯った蝋燭を片手に持ち、蝶ネクタイをした当レストランのオーナーが描かれている。
彼の名はお化けギャルソン1
そのお化けと聞けば誰もが思い浮かべる様な王道、かつシンプルな姿形は、1巻目を彩るにふさわしい品格がある。
私は、怪談レストランシリーズ数多のオーナーの中でも群を抜いて彼の事が好きである。

私と怪談レストランの出会いは小学生の時に父の書斎で見つけた墓場レストラン2であった。
低学年だった私にとっては、少し文量が多かった怪談レストラン。しかし魅力的な挿絵に惹かれて一生懸命読み耽った。作品中レストランの名称が「フリートホーフレストラン」となっており、意味が分からなかったのはいい思い出。
2009年からアニメ化もして、毎週楽しみに観ていた。
アニメ版は原作とはまた違ったキャラクターやシナリオで構成、展開されていて、それも良かった。
何より大好きなお化けギャルソンが動いていたのがとても嬉しかった。

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目次

あらすじ

“ようこそ・・・・幽霊屋敷レストランへ”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.3

幽霊屋敷として有名な、町のはずれにあるレンガ造りの洋館。ある家族が屋敷から引っ越して2年の月日が流れたが、未だに空き家である。屋敷の周囲は鬱蒼とした木々が囲み、壁にはツタが這いまわり、窓には人影、煙突からは人魂が飛び出し揺蕩う。
ある小学生2人が夏休み、肝試しと銘打って屋敷を訪れ怪異に見舞われる。この屋敷には女と男の幽霊が住み着いているようだが、彼らの関係性は不明。
そしていつの間にやら、この洋館は幽霊屋敷レストランとなっていた。読者はゲストとなり、当レストランでお料理(お話)をいただくのである。
作品は全13話のオムニバス形式で描かれ、内3話は幽霊屋敷レストランに関する話、内10話は広義のホラーに関する話で構成されている。「幽霊屋敷(心霊スポット)」に関する話が多めの印象。p26-27 レストランのメニューを模した目次が非常に面白い。

メニュー

最初のお話 幽霊屋敷

“幽霊屋敷ってとこからよ。すぐもどってこいだって”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.18

幽霊屋敷。
かつては一地区に一軒幽霊屋敷。と、そう呼ばれるくらい、それが多かったと思う。小学校で休み時間にでもなると、教室は生徒たちのそれに関する話題で沸いたものだ。それは和風かもしれないし洋風かもしれない、しかし二者の共通項として、壁にツタが這いまわるという点がある。ツタには美景演出、断熱効果や緑化促進など利点もあるが、それにまとわりつくかぴかぴのツタには、どこか無常観が漂い、怪異の舞台に彩りを加えるのである。夏には雨水を溜めたバケツにボウフラが湧き、冬は木枯らしが立木を舐め、そこに独特な春夏秋冬を形成する。
そんな幽霊屋敷に小学生が二人肝試しに訪れ、テープレコーダーをまわして探索を始める。体験者の鑑である。私もかつて、友達と廃結婚式場に忍び込んだことがあるが、写真などの電子記録媒体への記録は行わなかった。以降は彼らを見習わなければ。

バラのお話 あの世からの薔薇

“さあどうぞ、おはいりください。あ、そのまえにこのバラの花をごらんください”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.19

夢の中である一定の判断を求められ、誤ると何か良くないことが起きる話に関してまず想起するのは地獄先生ぬ~べ~にでてくるブキミちゃん3である。
睡眠は多くの人にとって不可欠な作業である為、怪異による強制的な夢見を回避することは難儀である。この手の話の怖さはそんな不可避的な怪異という点にある。ただし、この話は複雑かつ高度な判断を要しないという点において、少し毛色が違う。第一の夢では白蛇が娘をよこせと言う。第二の夢では死んだ娘がバラをもらえと言う。母は断り続けるが、やがてそれらの要求を受け入れてしまう。そこに、第一の夢では病気に苦しむ娘を早く楽にしてやりたいと潜在的に願う母、第二の夢では自身の死を受け入れてでも愛する娘の元へ行きたいと願う母、という母の娘に対する愛が垣間見れる。

予約席

“もうひとつ、水をください”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.31

なぜ彼ら親子は一杯の水を欲したのだろうか。実際に彼らは幽体となっている為、コップの水を飲み干すことはできないし触れることもできない。そして全身黒こげになっている人間に対して一杯の水がもたらす効力は知れている。
きっと彼らは自らをあの世へと媒介してくれる存在を待ち望んでいたに違いない。
それは、懇ろな弔いと、一杯の水であったのだろう。

幽霊城のバーベキュー ※4

“おちるぞー”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.41

怖いもの知らずの輩が怪異にひどい目に遭わされる話は数知れないが、本作品は怪異がそんな輩の勇気を讃え、褒美を与えるというものだ。怪異の登場の仕方が段階的でユニークである。
人生において、強気でいくことが大事であるということを私たちに教えてくれているに違いない。

ゴロンゴロン

“またおどかしたの?”
”だっておもしろいんですもの”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.55

怪異の一人称視点で描かれる怪談っぽい作品。
定石を押さえつつも、自分の死体を乗せたストレッチャーをゴロンゴロンと押しながら迫る異質なビジュアルは中々怖い。彼女には脚がないため、ストレッチャーの「ゴロンゴロン」という音のみ強調され、さぞかし夕暮れの体育館に響き渡ることだろう。しかし、獲物を気絶させた後は命までは取らず、しっかり体育館の外まで抱きかかえて運んであげるところはなんとも律儀である。また、彼女はナースの恰好をしているが、生前ナースをやっていたわけではなく、この学校の生徒だそうだ。
きっと彼女は生粋のエンターテイナーなのだ。

ふとんの怪

“ソテツは水にさらして、毒をぬかないとたべられんのさ”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.58

ソテツ地獄、集団自決、戦争、悲しい想いが籠った布団に関する話。
集団自決で亡くなった方々の髪の毛をこれでもかと詰め込んだ布団の怪。
この話の真意は不明だが、非常に興味深い。

夢の館

“その幽霊というのは、おくさまご自身なのです”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.77

夢に見た家に実際に訪れた、という単調な話と思いきや、最後に何とも言えない奇妙な感覚に陥る。
それは怖さというよりかは、あぁそういうことか、という奇妙な納得感である。
最後の管理人の言動は、内検したときはすっとぼけていた、というのも相まって、非常に不気味である。
私も先日渋谷109に行った夢を見たが、現地は大丈夫であろうか。

ふすまのない家

“この家、へんな家だとおもったんでしょう。ね、そうでしょう”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.84

まず、本来あるものがない、ということは非常に不安定で怖い。ドアにドアノブがなかったり、眼鏡のグラスが1枚なかったり、人形の足が1本なかったりと、本来の姿と異なることで、その理由を深堀りして怖いほうへ怖いほうへと意味づけをしてしまう。
本作品では、ふすまがない。家の中の見通しが良いのだ。ふすまを立てると、怪異はふすまの後ろに現れ、ふすまを壊すそうだ。非常にセンスが良くて、怖い。
そして、いとこと恋がたきにはなりたくないなと思った。

おいで

“おまえ、かあさんといっしょにいきたくないのかい”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.95

母の怪異は娘を溺死させてまで何を果たしたかったのだろうか。なぜ彼女は最愛の娘を殺そうとしたのか。
国の大義の名のもとに大粛清を受けた父の家庭で育った兄妹。兄は残された家族を支え、社会に貢献するためにコムソモールのリーダーを務め、熱心に集会に参加していた。そんな中で母と妹は野良仕事や酪農に明け暮れ、無理がたたって、母は時代に絶望して死んだ。母はその禍根を断つために、怪異になったのではなかろうか。
当初は、別の何者かが母の遺体若しくは魂を乗っ取っとり怪異を成したものだと思っていた。しかしそこには
娘を救ってやりたい一心で怪異となった歪で悲しくも、娘に対する確かな愛があったのではなかろうか。
ハバロフスクの産婦人科病院で交わされた件の話。話者はおそらく娘であろう。彼女は母になったのであろうか。
彼女が最後に流した涙がかくも悲しく物語を締めくくる。

地下室のある家

“その人はニヤッとした”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.104

ふとした瞬間に異界への扉を開き、迷い込んでしまう話は多いものである。
松葉杖のお兄ちゃんの怪異としての姿は、異形でも恐ろしい姿でもない。松葉杖をついたにこやかな、当時の学生のままである。彼の魂は20年もの間、あの部屋に縛り付けられていて彼の空間を表出しているのだ。
それの根拠は主人公が祖母から聞いた彼に関する話にある。母子家庭で育った彼は大学3年生の時に交通事故で死んでしまう。そして彼を女でひとつで育てた母は頭がおかしくなって20年経った今でも病院に入院しているそうだ。そんな母を見ると彼も死んでも死にきれないのであろう。
家が取り壊された今、母も前を向いて再び元気に歩いていければと思う。

氷をください

“どうせ、そのうちに死ぬんだから、みたってしょうがないさ。はなれの病室にいれておけ。入院費だけはとるのをわすれるな”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.114

いつの時代も、悪いやつというのはいるもので、本作品ではそんな悪徳医が痛い目にあう。
結核は今でこそ薬を処方するれば治る病気になったものの、かつては我が国では亡国病と怖られたくさんの人が亡くなった。そんな時代背景をもつ本作品はその時代の暗さを色濃く反映している。
「氷をください」 という2人の娘の最期の言葉も何だか感慨深い。氷すらも満足に与えてもらえなかったのであろう。実際にこういう事はあったのだろうか。現代の医療技術には感謝である。

毒見

“せっかくのきのこパーティですからね”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.124

きのこパーティで、猫に毒見をさせるというノリが怖い。
猫そっちのけで自分らだけ病院に駆け込むというノリが怖い。
物語のオチとして、猫の嘔吐はツワリでした〜というノリが怖い。

最後のお話 幽霊のごちそう

“ぼくは、火のそばへあるいていった。パチパチ、はぜる火の上に、大きなフライパンをのせて、さかなをソテーにしてるんだ”

怪談レストラン編集委員会 [1996]『幽霊屋敷レストラン(怪談レストラン)』p.129

美味しいお料理を出すだけじゃないのが幽霊屋敷レストラン。
お腹いっぱいになったお客さんを容赦なく襲う怪異たち、彼らはお化けギャルソンに雇われたのでしょうか。それとも彼らもレストランのお客さんなのでしょうか。最初のお話で小学生2人が迷い込んだ幽霊屋敷で、聞こえた男女の声は、この怪異たちに関係あるのでしょうか。
寸前のところで命拾いしたゲストは、レストランをあとにするのであった。

まとめ

私の地元には幽霊屋敷と呼ばれた廃結婚式場があった。
友達とドキドキしながら忍び込んだあの中2の夏を私は忘れない。
ヒルに怯えながら鬱蒼とした木々を抜け、今にも崩れ落ちそうな階段を登り、侵入したその建物は、窓ガラスはほとんどが割られ、壁にはたくさんの落書きが犇めいていた。そして建物内はロビーの電話、露天風呂のシャンプー、個室の鏡、すべてが当時の趣を保っているように思えた。かつてここではたくさんの人が祝宴をあげ、様々な物語にどよめいた。そんなことを考えていると不思議と怖くなくなって、いや、恐怖よりも哀愁と言おうか。なんだか悲しくなってしまったのを覚えている。結局所謂怪奇現象は起こらず、私たちの夏の冒険は幕を閉じた。

ここはいつから幽霊屋敷になったのだろうか。
ここには、ただ茫漠な時間の経過があるだけで、幽霊はいないのではなかろうか。


  1. アニメ版での名称。
    原作では、お化けギャルソンとの明記はない。
    また、pp.1-3において複数体のお化けギャルソンを確認できるが、各々の関係性は不明。 ↩︎
  2. 怪談レストラン⑨ 墓場レストラン
    フリートホーフはドイツ語で墓場の意。 ↩︎
  3. 地獄先生ぬ~べ~に登場する怪異。ブキミちゃんの噂を聞いた者の夢見に3日以内に現れる。
    夢の中で彼女から、赤白黄3つの門のうち赤い門をくぐって、4つの扉のうち左から2番目の扉を入って…などのルートの指示を受ける。
    その通りに進むことができたら無事夢から覚めるが、1つでもルートを間違えると、その人は死んでしまう。
    真倉翔・岡野剛[2006]『地獄先生ぬ~べ~10(集英社文庫 コミック版)』より
    ↩︎
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この記事を書いた人

広義なお化けが好き
幼少期、アニメゲゲゲの鬼太郎第4期と出会い、異形を認識して以来
お化けの虜になる
大好きなお化けの記録媒体としてウラメシノハコをつくる

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