禁忌 絶対にやってはいけない13のこと
原作 矢樹純
漫画 加藤山羊
2014年3月20日 初版発行
少年チャンピオン・コミックス
本作の原作者である矢樹純作品の中で、初めて読んだのがこの作品だ。
最近では同作者の「撮ってはいけない家」の書評を当ブログに掲載したので興味のある方はこちらも見ていただければ幸いである。

本作は実の姉妹が共同で作り上げるホラー漫画であり、一話一話に現れる怪異のビジュアルは攻撃力高めで我々読者にアタックをしてくるので要注意である。
書評
怖がりな人間が「こんな目には絶対に遭いたくない」と思う話を集めました。
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 そでより
本作には13の禁忌が詰まっている。それら一つ一つに対して、書評を書きたいと思う。
壱之禁「振り返ってはいけない」
見てる
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 p.8
たしかに、夜道を一人で歩いているとき、後ろが気になることがある。それは後ろに誰かがいるかもしれないという不安や恐れからくるもので、「夜道」や「独り」という要素がそれらを倍増させているからだと言える。また、勇気を出して振り返り、安心したのもつかの間、当初の進行方向に再度振り返る必要があるため、この行為には二度もドキドキポイントがあることを忘れてはいけない。そして、現実や空想において不幸というものは大抵二度目にやってくるからである。
怪異が口にしている「見たい」というセリフは、主人公の内心を言語化していると思われたが、ラストシーンより怪異本人が主人公の顔(ないしは目を)見たいという意味であったのだと考察できる。
弐之禁「踏んではいけない」
あの道の黒いマンホールの蓋を二回続けて踏むと
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 p.23
《マンホール女》が出て来るんだって
レースカーテン越しに、その存在を主張しているにも関わらず、端から顔を横にしてひょっこりはんするところが非常に怖いと言える。この怪異は初めから終わりまでどこか儀式めいた雰囲気を纏っている。それは、彼女という怪異を成す根本的な理由に深く関わっていると推測できる。
「マンホールを二回続けて踏む」行為は意図せずともやってしまう可能性が高い為、とても厄介である。
参之禁「追い抜いてはいけない」
んで 乗ってた奴ってのがやたら小っちゃい奴なんだよ
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 p.37
子供か?って思うくらい
この怪異は河童なのか、河童じゃないのかという点、考察が難儀する。
河童であった場合、なぜバイクに乗って現れるのかという点が全く説明できない。河童といえば普通「相撲で勝負」ではなかろうか。ただ、腕が伸びているところを見ると河童の特徴を表現しているものと考えられる。河童でなかった場合、この地でバイクレースをして事故に遭って死んだ人間の怪異といったところか。以上のことを見るに、怪異の正体は人間のお化けと河童が合体して誕生した何かと言えそうだ。環境破壊により故郷の河を追われた河童と、成仏できない霊魂が出会ってしまったのだ。
四之禁「思い出してはいけない」
とにかく絶対に康一にあのことを思い出させちゃダメよ
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 p.56
どこか哀しい作品だ。自分の子供が康一に突き飛ばされるのを、母は見てしまったのだろう。そのことに感づいた康一の両親や祖母も、康一を守るため、奔走したことが窺える。
五之禁「嘘をついてはいけない」
絵美ちゃんは嘘つきじゃないよ
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 p.81
絵美という主人公の情緒が心配になる話だ。菜々ちゃんと仲良くなれてよかったと喜んだ矢先に、憎しみの矛先が彼女に向いてしまうその心変わりが一番の怪異である。それほど、思春期の空模様は変わりやすく絵美が抱えていたコンプレックスは闇が深かったという事だろう。人間の嫉妬というものは、わが身を滅ぼす。
六之禁「覗いてはいけない」
あのログハウスには
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 p.85
《煙突男》が住んでるって
三点謎が残る。
一点は、夫と息子を焼き殺そうと母が玄関に火を放ったあと、なぜログハウスは全焼しなかったのだろうか。それは木製であるため、消火しない限りはまず全焼は免れないだろう。消防隊が消火したか、母自身が消火したか、真実は不明である。
一点は、主人公が暖炉の中を突っついた際に落ちてきた人間は誰なのか。突っついた際に物理的な感触があったため、幽霊ではなさそうだ。主人公はホームレスだと推測していたが、これについても真実は不明である。
そして最後に、「煙突の中で二人が死んだ」という部活に伝わる噂と、合宿所のオーナーが語る「二人は焼き殺された」という発言の奇妙な齟齬は、何を意味しているのだろうか。
七之禁「轢いてはいけない」
猿を轢いちまったんだ
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 p.102
猿ではなくてして、何なのだろうか。本作の怪異は、山の怪や、神に近い存在を思わせる見た目をしている。山道の祠に眠っていたそれが、目覚めて外に出た時、たまたま兄が轢いてしまったのだろう。それにしても兄の怯え様からして、その存在について、兄は何かを知っていたのではなかろうか。
八之禁「話しかけてはいけない」
鏡に話しかけたら気が狂う
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 p.113
主人公が合わせ鏡に「もう一人の自分」を認識してから3年、行方不明になったことは事実のようだ。そこで「もう一人の自分の存在」と「行方不明事件」がどう関係しているかを考える必要がある。物語の最後に現れるやつれた男はもう一人の彼ではなく、主人公自身であると予想されるため、現実にもう一人の彼など存在せず、彼が脳の中で認識した幻想に過ぎないことを示唆している。つまり彼は、気が狂ってしまったのである。
九之禁「捕まってはいけない」
そこは《スクナビコナ》がおるけ
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 p.129
入ったらいけんのじゃ
境内の本堂に祀られたおもちゃと、子供を思わせるスクナビコナの体躯には何か関係があるのだろうか。とにかくp.135に描かれたスクナビコナの絵が怖すぎて、夜トイレに行くときなどは脳内をスクナビコナが駆け巡っている状況だ。
捕まると気を吸われ「大きくなる」というルールもどこか抽象的で怪異の目的が読めず、怖い。しかもこの怪異は、村では有名で若干人気者の節があるところも謎だ。
十之禁「返事をしてはいけない」
おまえは二十歳になることはない
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 p.156
「寝言に返事をしてはいけない」という迷信を拡大解釈したような話。たわいもない寝言から、離婚した父が憑依したような寝言、予言じみた寝言といったように、母の寝言はどんどんエスカレートしていく。これは妄想だが、暴力をふるっていた父を、母が殺してしまって、その父の怨念となって母と子を苦しめているのではなかろうか。いずれにしても、暴力を受けた側が報われない後味の悪い話である。
十一之禁「繰り返してはいけない」
一番悪いことっていうのは
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 p.164
悪いことを繰り返すことだよ
春奈の目的はなんだったのだろうか。
春奈は恭平のことが本当に好きで、お互いにしてしまった悪いことを懺悔するために、不思議な絵の呪いを自分と、恭平にかけたのか。また、春奈は過去に、自分を虐待した両親に同じ呪いをかけて呪殺したことを匂わせているとも言える。
十二之禁「連れて行ってはいけない」
卒業登山か
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 p.173
いいねぇ
修の願いを最終的に聞き入れた祐二にも非があるため、楽しみにしていた東京での大学生活を前に死亡し、お化けになってまで親友である修を殺すのはどうかと思う。まぁ、祐二を引き留めた修にも非がないわけではないが。
十三之禁「読んではいけない」
その漫画を読んだ奴は自殺するって話
矢樹純 [2014] 『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』 p.193
もっと「呪い」的な話がくるのかと思っていた。
突然プラナリアの話になり「Noudarake遺伝子」という架空のダジャレワードでギャップホラーを狙ってるなと、にやにやしていた僕であったが、ひとたびNoudarakeをググって驚いた。どうやら本当にある遺伝子のようだ。
それにしても脳だらけになってもなお自己を保てる超人にならなくてはならない理由はどんなものなのだろうか。13の禁忌の中で一番ぶっ飛んでいて、とても好きな話だ。
まとめ
…をしてはいけない。
という言葉にはある種の魔力のようなものがある。
子供の頃、周りの大人にダメと言われたことがなぜダメなのかわからず、実際にやってみたことが何回もある。そのたびに怒られたものだ。パッと思いつくものだと「扇風機の後ろ側から指を入れてはならない」というものだ。僕が子供の頃の扇風機といえば、昭和の頃の型がまだたくさん残っていた。我が家の扇風機も当時は昭和の懐かしい形のものが現役でバリバリ動いていた。扇風機カバーの網目は今よりもはるかに粗く、指がするっと入った。なので、幼かった僕はよく扇風機の前側から指を入れて、回転するプロペラにかたかたと指を当てて、指に伝わる振動を楽しんでいた。
Xデーはある日突然やってきた。さんざん注意されていたのにもかかわらず、その日の僕は、扇風機の後ろ側から指を入れることを試みたのである。結果はがりがりとプロペラが指に当たり、激痛が走ったのを覚えている。指がなくなっていたらどうしようという心配を胸に自らの指を確認したところ、切断されていなかったのでほっとしたのもつかの間、その一部始終を見ていた祖母にこっぴどく叱られた。この時僕はなぜ「扇風機の後ろ側から指を入れてはならない」のかを身をもって知ったのだ。
そんなしょうもない思い出はさておき、本作の禁忌は全体的に抽象的である。つまりは、それを意図せずに行ってしまう可能性が極めて高いことを表している。要は禁忌を侵してしまうトリガーは本人の故意の有無に限らず、高度な偶発性、蓋然性といった特徴を孕んでいるのだ。それが本作の怖さをより強調させている。
それから、カバーをとると現れる奇怪な漫画は「狂気」じみていて最&高である笑


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