【書評】異形家の食卓

異形家の食卓
田中啓文
2003年2月25日 第1刷
集英社(集英社文庫)

田中啓文作品で最初に読んだ作品は「水霊 ミズチ」である。
僕の中学校では、毎日朝の会が終わったのち「読書タイム」と呼ばれる15分ほどの枠が設けられていた。この「読書タイム」で最初にチョイスしたのが「水霊 ミズチ」であった。その頁数の多さから読むのにかなり時間がかかったと記憶している。
このことを「異形家の食卓」記事の冒頭で書くのには理由がある。本作の巻末掲載の解説を読んであの「水霊 ミズチ」の作者が田中啓文だと知ったのである。この二作品は作風を全く異にしている為、今に至るまで気づかなかったわけだ。

さて、本作は所謂連作短編集であり、各々の話の世界観や雰囲気はどこか似ている。
表題は全三話構成となっている。
諧謔とグロテスクを掛け合わせたような独特な世界観に釘付けになることであろう。

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目次

書評

雲形定規のようにいびつな形をした食卓には四人がついていた。

田中啓文 [2003] 『異形家の食卓』 p.98

まず、表題作品について触れる。
雲形定規のような形をしたテーブルで家族四人が話しているカットから始まる。犬木加奈子の表紙画がそれを彷彿とさせる。そもそもこの魅力的な絵に惚れてこの作品を手に取ったのは言うまでもない。
全三話を読むと、彼らがもつ食人嗜好の理由が判明する。各作品の最後に登場するダジャレがとても良い味を出している。
「にこやかな男」に始まる本作品集は全体的に狂気じみていいて、食にまつわる「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー」「オヤジノウミ」「邦夫のことを」、SFのような「三人」「怪獣ジウス」、暗黒童話のような「俊一と俊二」「塵泉の王」など、バラエティに富んでいる。

田中啓文が描くホラーは「諧謔」であり、グロテスクは「味覚」なのかもしれない。前者はホラーという暗い負の要素を、ギャグという正の要素をちりばめて描くことによって生まれるギャップにその真髄を宿していて、後者は本来衛生的で安全で、美味しさを求められる食物というモノを、不快でヌラヌラしたモノに置き換えることにより、二重のプレッシャーを生み出している。そのうえで、物語にどんでん返しやトリックなどの刺激物が混入されているので、読みだしたら面白くて止まらないのである。
そして、バ……神に始まる「異形」な存在は、その場所を侵し、そのことに気づいた別の存在が誰も近づかないようにその場所を穢す。その別の存在は新たなバ……となり、世界の穢れは無限に増殖する。その良かれと思って生まれた穢れは結果的にその土地も、人も不幸にするのだ。そういったある種のディストピア的テーマについても作品集全体を通して表現されていると言える。

さて、そんな魅惑的な作品集の中で僕が一番好きな作品は、「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー」である。その独特な固有名詞命名の所以が「鳴き声」にあるという点がまず面白い。「ニグ・ジュギペ・グァのソテー」とは一体どんな甘美な味がするのだろうか、そして、一度食べたら最後、体内にニグ・ジュギペ・グァを宿してしまうオチは何とも言えない禁忌感が出ていて良い。
そのヌラヌラ動く体躯に「水霊 ミズチ」を見たような気がした。

まとめ

「異形家の食卓」と聞いて一番に思いついたのは「伊東家の食卓」である。
小学生の頃、伊東家の食卓放送翌日になると、隣の席に座っていたYちゃんが放送の内容を事細かに教えてくれた。おかげで僕は、伊東家の食卓を見なくてもその内容について知ることができた。なぜ、毎週事細かに内容を教えてくれるのかはよくわからない。逆に言うと、僕はYちゃんがどんな人だったかあまり思い出せない。どんなに記憶を手繰り寄せても、覚えているのはこの「伊東家の食卓」に関するエピソードのみなのだ。

先日、実家をくまなく探してみたが「水霊 ミズチ」が見当たらなかった。
あまりに懐かしくなったので読みたかったのに…どこにいってしまったんでSky?


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