【書評】変な家1&2Special BOX

変な家1&2Special BOX
雨穴
2025年12月31日 第1刷発行 1
飛鳥新社

下記の動画は僕が作者を知るきっかけになったものだ。

おどろおどろしいBGMと、人面犬ならぬ人面汽車たちの並走。すぐにプロフィールサムネをタップし、チャンネルページに飛んだ。そこには真っ黒の全身タイツに身を包み、真っ白な石膏を思わせる面を被った投稿者がいた。
「雨穴」その字面を見た時に「あめあな!?」と思ったのもつかの間、それを「うけつ」と読むことを動画を貪るように閲覧し、知った。干された肉の動画、ハンコの迷路の動画、気味の悪いおせちの動画…僕はその意味の分からなさと不気味さ、何より投稿者の創造性に釘付けになった。

本作品は「変な家」「変な家2 ~11の間取り図~」二作品を収録していて、かつ「HENNAIE SPECIAL BOOKLET」という小冊子と、ポストカード3枚がセットになった愛蔵版、永久保存版、超豪華ボックスセットである。僕はすでに本編二作品を持っていたのにも関わらず、小冊子とポストカード欲しさにしっかり購入してしまうほどのファンでは、ある。
小説の雨穴作品で初めて読んだのは「変な家」であるが、動画版の方が出会うのが早かった。2その時のどきどきとわくわく、衝撃は今でも忘れない。原作でいう第一章が映像化されていて、食い入るように見てしまった。
本作品は二作品を収録しているため、本記事も二作品についての書評をまとめて記述しようと思う。

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目次

変な家 あらすじ

あなたは、この家の異常さが分かるだろうか。

雨穴[2021] 『変な家』 p.5

オカルトライターとして数々の怪異を取材してきた著者のもとへ、ある日、知人の柳岡から一枚の奇妙な間取り図が送られてくる。どこにでもありそうな住宅の図面。しかし、その間取りには、説明のつかない不自然な空間が存在していた。
その不可解な間取りの真相を探るため、著者は大手建築事務所に勤める設計士・栗原とともに調査を開始する。だが、間取りの背景を追うにつれ、一枚の図面からは想像もできない恐るべき事実が次々と明らかになっていく。

変な家 書評

まあ、これも単なる「憶測」ですから。
気にしないでください。

雨穴[2021] 『変な家』 p.244

実行犯が「子供」であるという展開は江戸川乱歩の「孤島の鬼」を読んで久しい。少々それを取り巻く環境は異なるが、それほど「子供」に犯罪をさせるということはセンセーショナルなのだ。本作における推理の大枠を鑑みると、実際にこのようなことは起こっていなかったらしいが、第一章の「掴み」の秀逸さには感嘆するばかりだ。
例の間取り一階の奇妙な隙間は、ただその存在だけで、我々読者に心地よい違和感を与えてくれる。そしてその用途を知ったときに、その違和感は恐怖へと変わるのだ。そこには灯の存在が描かれていない。真っ暗で、じめじめした狭い通路を通って遺体を運ぶという行為は想像しただけで、全身が粟立つ。

背景に「左手供養」を据え、脈々と続く一連の事件の発端は、嘉永が産み落とした宗一郎と清吉にあるといえる。横溝正史の「犬神家の一族」が頭をよぎったのは、きっと僕だけではないはずだ。雨穴作品は日本の古き良きミステリー作品を現代風に非常に巧く昇華している。そんなクラシックな設定と全身タイツに真っ白いお面のアンマッチが怖さを助長する。小説の中の彼はそのような風貌ではないが(そう願いたい)。
分家の後継者争いの果に、本家に呪いをかけた第二夫人志津子一派は左手供養の期間を「対象が10歳になってから13歳になるまでの間」と指定したわけだが、その呪いが自らの一族を長年苦しめているのだから、それこそまさに「今」がよければ良いと言う浅はかな計略にほかならない。宗一郎という人間の弱さを甘くみた結果であろう。しかも喜江が本家に嫁いだことで、呪いは廻ることになるが、喜江が本家の人間に復讐することはどこか筋違いな気がしなくもない。
いずれにしても、物語の趨勢が二転三転する様は、様々な考察の余地を生み、読むたびに異なる感覚をもたらせてくれる。

変な家2 ~11の間取り図~ あらすじ

私は封筒の中から、11冊の資料を取り出した。
それぞれの冊子には、私がこれまで調査した「情報」がまとめられている。

雨穴[2023] 『変な家2 ~11の間取り図~』 p.284

オカルトライターとして活動する著者のもとには、今日も不可解な相談が寄せられる。その中でも特に異様だったのが、奇妙な「間取り」にまつわる11の事例だった。
一見すると、それぞれは何の関連性もない住宅の図面。しかし、大手建築事務所に勤める設計士・栗原とともに間取りの謎を調査し、推理を重ねていくうちに、不可解な空間や建物の違和感が少しずつ一本の線で結ばれていく。
バラバラに見えた11の間取りは、やがて一つの恐るべき物語を紡ぎ出す。

変な家2 ~11の間取り図~ 書評

これらの出来事は、かつて長野県西部に存在した宗教施設「再生の館」を中心として起きているんです。

雨穴[2023] 『変な家2 ~11の間取り図~』 p.289

本作にはなんと11個もの間取りが登場する。間取りを通した恐怖を植え付けて来ると言う点において抜け目がない。

ここで、本作における忘れもしない鳥肌シーンを紹介したい。それは「資料② 闇をはぐくむ家」の中でみられる。閉鎖的な間取りを背景に凄惨な殺人事件が起きるが、現場の状況を元に推理が二転三転し、少年が犯した殺人のきっかけが、実は彼の母親にあるという点に言及されるシーンは本当に怖かった。ことホラー小説というのは、読者を怖がらせるポイントをどこに、どのように配置するかという点が最大の難点であり作者の腕の見せ所であると思っているが、雨穴作品はそのポイント、及び恐怖を増長させる伏線の配置、そのポイントに至るまでのルートが秀逸である。テトリスでいう、一見意味のなさそうな位置にブロックを配置し、画面いっぱいにブロックを積んだあと、最後の最後で訪れる消去を口火に画面上のブロックをすべて消すあの技と、本作における11個の一見意味のなさそうな間取りがやがて一つの「意味」を成す点には近しいものがある。

そのほかにも、「死んでいたのはシラサギではなく人間であった」ことや「自室にいると思ったら隣家の奥さんの部屋にいた父親」「一度だけ現れる部屋」など、恐怖の錯誤が一つ一つ解明されるたびに、我々読書は作品に惹き込まれるのだ。

まとめ

雨穴作品にはおしなべて、幽霊が登場しない。3
「人間かと思ったら幽霊だった」よりも「幽霊だと思ったら人間だった」と言う構成をもつ作品が多いように感じる。
(というよりは事象の原因が人間にあるものと言った方がよいか)
それは例えば「地獄の道化師」や「夜行怪人」のような一見すると超自然的能力を操り、摩訶不思議な犯罪事件を起こす怪物も、結局その正体は人間であるという、我が国のミステリー小説に綿々と続く概念が想起され、その根底に渦巻く人間模様に魅了される。

本作「変な家」「変な家2 ~11の間取り図~」には「怪物」は登場しないが、「左手」「右脚」を失った者たちが登場する。
その「欠損」の違和感が奇妙な「間取り」と符合したとき、恐怖は増長するのだ。

ちなみに本愛蔵版のおまけであるポストカード3枚は僕のポストカードコレクションの仲間入りを果たした。
夜な夜な眺めて、にやにやするばかりだ。


  1. 特別付録である「HENNAIE SPECIAL BOOKLET」の発行日を記載した。
    「変な家1&2Special BOX」の発売日は2026年1月15日となっている。
    また、本作収録収録作品である「変な家」「変な家2」の発行日は下記の通り。
    「変な家」
    雨穴
    2021年7月27日 第1刷発行
    飛鳥新社

    「変な家2 ~11の間取り図~」
    雨穴
    2023年12月29日 第1刷発行
    飛鳥新社 ↩︎
  2. 当ブログを執筆している2026年7月現在、youtubeの彼のチャンネルでは「【完全版】変な家(全新録)」が挙がっていて、当時の変な家の動画は見れなくなっていると思われる。 ↩︎
  3. 「HENNAIE SPECIAL BOOKLET」に収録されている「不安な家 ~存在しない十畳間の夢~」はもろ幽霊譚であると考えられる ↩︎
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