閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書
知念実希人
2025年9月21日 第1刷発行
双葉社
モキュメンタリーホラーを何冊かまとめて購入した時の一冊。
作者の知念実希人は、現役の医師として医療の最前線に立ちながら、多くのミステリーやホラー作品を世に送り出している小説家である。本作においてもその特徴は色濃く現れていると言える。
今回はそんな「閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書」について、書評を書こうと思う。
あらすじ
こんにちは、上原香澄先生。今日から『あの大量殺人事件』についてインタビューをさせていただきます。
知念実希人 [2025] 『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』 p.18
どうか、よろしくお願いします。
精神鑑定医である上原は、ある連続殺人事件の犯人である八重樫の精神鑑定を担当する。八重樫はその最中支離滅裂な言動を繰り返し、やがては上原の眼前で自殺をしてしまう。
八重樫が最後に残した「あなたに託す」という言葉がずっと気になっていた上原は、彼がなぜそんな事件を起こし、あのような死に方をしたのか調査をすることになったのだが。
書評
繰り返すが、途中でいつでもこのファイルを読むのをやめることは可能である。
知念実希人 [2025] 『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』 p.5
ドウメキと聞くと鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』に描かれている百々目鬼が頭に浮かぶ。子供の頃妖怪図鑑を眺めた時に「いや、腕にしか目がなくてしかも100個も無いやんか」と思ったものだ。その頃の僕には「見えているのが腕の部分だけで衣服を脱げば身体中に目がある」ことがわかっていなかったようだ。
監視システムの名前に「ドウメキ」を使ったのはなかなかセンスがあると思った。作中ちょくちょく登場する缶コーヒーのくだりは、意外に怖かった。
昨今モキュメンタリーホラーと言っても本当に種々様々なものが登場している。本作はまるでモキュメンタリーホラー亜種のような特徴をもっている。少なくとも僕はこのようなアプローチを試みる同ジャンル作品を知らない。ガンザー症候群について知見を得る為に人体実験をしていたマッドドクターが、この世の中全てをドウメキというシステムを使って監視、実験を行っていたというオチである。我々読者は八重樫に始まる大量殺人事件を皮切りに様々な情報をドキュメンタリー形式で読まされる。そして我々がそのあとでどのような反応をするかを最寄のドウメキシステムにて監視されているというモキュメンタリーホラーと医学知見を混ぜたようなオチには脱帽である。ただし、我が国に存在する100人程度の死刑囚が、例え当研究の成果によって全員ガンザー症候群に罹らなかったとしても、その功績の大きさは全国の人間を常に監視している事実、それに起因して奪われた多くの命の価値に比べると、やや陳腐なもののように思える。つまり、その掛かるであろう莫大な費用の出資元が明らかにアンダーグラウンドな組織であることは想像に容易く、本来の目的が論文「ガンザー症候群の本態を探る」におけるそれでは無いことは明白である。以上のことから本作において言及はされないが、黒幕は宇賀神一人ではなく、所謂国家的陰謀論などと言ったものが関連し、その構造は根が深いと言えるだろう。
まとめ
とある国家では、街の至る所に設置された監視カメラで国民全ての顔を識別できるらしい。そしてそれは客体が整形によって顔を変えていても、それを見抜くことができるらしい。
そのテレビ番組を見た時に、まさにこれは「ドウメキ」であると関心したと同時に国民がガンザー症候群にならないかどうか不安になった。
本作は行き過ぎた監視社会に対して、ある種の警報を鳴らしているのかもしれない。


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